無課金で恋がしたい

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無課金で恋がしたい

鬱蒼と生い茂る山の緑が、太陽の光を反射して部屋の中に届くくらい眩しい。 ささやかな風が全開にした窓から少しだけレースのカーテンを揺らすけど、首筋を何度も流れる汗はなかなか引いてくれない。 とある片田舎の、とあるアパートの一室で、河本絵理は念を送るようにスマホの画面を睨みつけていた。 指先に全集中を注ぎ込み、その指で画面に触れると、次々に現れるキャラクターたち。 その十人目が出てきたところで、窓が開いていることも忘れ、絵理は怒りも悲しみも含んだ声を上げた。 「なんでだぁあー」 暗くなったスマホの画面すら見るに堪えかねて、両手で顔を覆った。 (え、嘘でしょ?これピックアップガチャだよね?もう10連12回目なんですけど。120枚のカード引いてんのに推しが一枚も出ないってどういうことなの!?この日のために、このガチャ回すために、せっせとダイヤ貯めてきたのに。こんなのあんまりだ…) テーブルに額をこすりつけ腕も無造作になげうって、そのまま暑さで溶けてしまいそうなほど、絵理は気力を奪われていた。 今日は、絵理が一番ハマっているアプリゲームの推しキャラの誕生日。 毎年、登場するキャラクターの誕生日に普段よりもそのキャラクターが出る確率の高くなるガチャが開催されている。 この日に向けて何ヶ月も前から、絵理はガチャを回すためのダイヤを貯め続ける。 それがこのゲームに、一番の推しに出会ってからの恒例となっていた。 毎年追加される、新規描き下ろしのバースデーカードを手に入れるために。 今年は特に限定のフルボイスストーリー付きということもあって、絶対に手に入れたかった。 にじんだ汗を拭うこともせず、本当にこのまま溶けてしまおうかとさえ考えていると、ふとどこからか声が聞こえてきた。 『課金、する?どうしても欲しかったんでしょ。フルボイスストーリー気にならない?あの人の声、聞きたくないの?』 それはまるで悪魔のささやきで、気づけば指が勝手にスマホ画面をいじって、ダイヤの購入ページへと移動していた。 「あぁ、危ない。ちょっと、落ち着いて、考えるんだ私」 すんでの所で我に返った絵理は、慌てて画面を消してスマホと距離をとった。 (今月すでに別のゲームで、イベントのために一万使ってるんだった。もうすぐ給料日だけど、家賃と光熱費と…あぁ駄目だ。今課金したら、来月飲まず食わずで生活しなくちゃならなくなる。それはさすがに…ごめんよ、私の最愛の人) 先月と同じ分の給料が振り込まれると仮定して必要経費を引いていくと、自由に使えるお金はさほど残らない。 むしろ課金をしてしまっている分、来月はいつもよりお金の使い方を考えなくてはならない。 しばらく頭を抱えてうずくまっていた絵理だったが、まだ今日は終わらないから最後まであがいてみようと、距離をとっていたスマホに手を伸ばした。
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