無課金で恋がしたい

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「おはようございまーす…なんか河本さんの周りだけ空気が淀んでるんですけど、どうしたんすか?」 「朝からずっとこの調子。推しキャラの誕生日ガチャが全滅で、もう生きていく気力がないらしいよ」 「あぁ、なるほど」 職場で絵理がゲームにハマっているということは知れ渡っていて、重い空気をまとっている理由に驚く人はいなかった。 全国展開しているような有名なチェーン店ではないにしろ、県内では5店舗を構えるそこそこ名の知れたファミレスで、絵理はホールスタッフとして働いている。 今日は開店から一緒の高橋と、遅番のシフトが多いアルバイトの平田、そしてチーフの酒井が主なホールスタッフのメンバーで、ここに週2でパートの主婦や土日に高校生アルバイトが入る。 絵理と絵理より半年ほど入社の早かった高橋は一応アルバイトより高い時給をもらってはいるけれど、正社員ではない微妙な立場にいる。 正社員との違いといえば、事務的な書類仕事があるかないか、だろうか。 絵理のいる店舗で正社員は店長一人。 しかし、事務的なことはチーフの酒井が任されていることが多い。 じゃあ一体店長は何をしているのか、ということになるけれど。 「河本さんもういい大人なんだから、課金したらいいじゃないっすか。俺なんて別のゲームですけど、ついに課金してアイテム揃えちゃいました」 そんでバトル報酬で欲しかったレアアイテムゲット、とへらへら笑う平田に、絵理は自然と語気が強くなった。 「実家暮らしの学生のくせに、生意気な。いくらあんたより時給高くてもね、安月給なのは変わらないんだよ。ここの給料で生計立てていくには、そんなぽいぽいお金使ってられないの。あー、もう本当になんで時給上がんないんだろ。おかしくない?絶対それ以上の仕事してると思うんだけど」 「それを店長に言ったところでねぇ」 しばらく静かに話を聞いていた高橋が、苦笑いを浮かべた。 「じゃあ正社員になったらいいじゃないですか」 「それは嫌。これ以上ストレスの種を増やしたくない」 真顔で断言する絵理を見て、平田は返す言葉が見つからなかった。 「こら、ちゃんと仕事しろー」 接客業らしからぬ気の抜けた声が後ろから聞こえてくると同時に、呼び出しベルが鳴った。 表示されている番号を確認して、平田が真っ先にその場から離れた。 別のテーブルではお客様が帰り支度をはじめて、高橋がレジに入る。 「じゃあ私はテーブルの片付けに…」 いつの間にか後ろに立っていた酒井の気配を感じながら、何もなかったかのように仕事に取りかかろうとして、絵理は呼び止められた。 「ちょっと待て、河本はあっち」 振り返れば、酒井は親指を立てて後方を指していた。 「店長が呼んでる」 「まじですか…」
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