扇情

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扇情

体育館内に響きわたるホイッスルの音 シューズのすべり止めと床がこすれる音 にぎやかな声。 ふたクラス合同で行われた体育の授業は男子校ということも相まってか 熱が入りすぎて収拾がつかないとのことで自習となった。 ふと視線を右へうつすと、簡易で作ったコートのなかで六藤が楽し気にバレーをしていた。 軽く遊んでいるわりには身のこなしが軽やかだ。バレー部とか言ってたかな。 しかし残念ながらうちのバレー部は志を高く持ったものは少なく 公式試合で勝ったという話を聞かないほどの弱小チームだったのだ。 六藤もその口らしい。 本気で部活動に励むのも良いことだけれど、彼らのようにスポーツを 楽しむために部活動をすることも悪くない選択かもしれない。 そんなことをぼんやり考えていると六藤と目が合った。 なんとなくすこし手を振ってみると長い腕を惜しみなく使い 肩から大きく手を振りあげ可愛らしく笑っていた。 その奥の方では平沢と鳥居を含め、同級生たちが本域でバスケットボールに励んでいた。 鳥居はバスケ部にしては小さい体躯をうまく用いて、小回りのきくパス回しでバスケ部を支えている。 心底楽しそうにしているので本当にバスケが大好きなんだろう。 そこに対立する形で平沢が立っている。 平沢はスポーツをするには恵まれた体をしているがスポーツは楽しむためだけにすることがポリシーのようで帰宅部に徹しているが、気が向いた時だけ 助っ人として様々な部活に顔を出しているようだ。 そんな二人の対峙を楽しむようにまわりがはやし立て、よい緊張感の中プレー しているようだった。 僕はといえばそんな彼らを観察したり、おなじく適当にやり過ごそうとしている級友と雑談をしながら少しづつ進む時計をながめ授業の終わりを待っていた ふと着替えのときに汗が冷えると心配していたけどそんな心配は必要なかったなと考え、また六藤に目をやると僕のタオルでごしごしと顔の汗をぬぐい 他人のタオルだというのにまったく遠慮せず体まで隅々拭いていた。 かなり無遠慮なやつだけど特に不快感は感じなかった こういった良い意味での厚かましさや人懐っこさは六藤の魅力だろう。 そうこうしているうちに授業終了のチャイムが鳴った。 熱烈な試合を繰り広げていたバスケ勢は残念そうにしながらも充実した時間に晴れやかな面持ちだった。
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