1話

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1話

自分を殺そうとしている男を目の前にして、俺は恐怖よりも先に尊敬を抱いた。 俺の国は小さいながらも戦争では戦略で勝利を勝ち取っていた。 今回仕掛けられた戦争も、負けるであろうと予想はしていたが、相手も苦戦すると考えていた。 …だが、ふたを開けてみると俺達の国はあまり時間も掛からずに負けた。 ………最善を尽くした筈だった。 「何か、言い残すことは?」 「…俺の、部下たちを……有能で良い奴等だ。使ってやってくれ。」 「へぇ…分かった。使ってやろう。」 銃口を突き付けられて、死を悟る。これで俺の人生は終わりだ。 覚悟を決めて男の青い瞳を見据えた。 「他は?」 「……ない。」 男はそうか、と一言だけ告げ、俺に向かって銃のトリガーを引いた。 思わず目を閉じたが発砲音は聞こえず、カチッという音だけが響いた。……痛みもこない。 「……おや、弾切れのようだな。 仕方がない。お前は捕虜として我が国に連れていくとしよう。」 「え…?」 「お前、名は?」 「た、田中…泊(トマリ)。」 「泊か。…では泊。捕虜になることと、俺の専属の秘書になること。どちらがいい?」 これは、俺を試しているのだろうか。 ……どう答えるのが正解なのか、分からない。 「…俺は、人に尽くすことは馴れているので…どちらでもいいです。」 「ふむ、では質問を代えよう。 俺と共に俺の国に来るか、この国の王と共に死ぬか。選べ。」 この男は、この国の現状を知っているのだろうか。 この国の王が、暴君であることを知っていて…? それならば、答えはyesだ。 「……連れていってください。俺たちを、この国から解放して欲しい。」 「よく言った。では、お前の王を殺しに行こうか。」 銃と弾を渡され、片腕を引かれて部屋の外に出る。 「…これで俺が貴方を殺したらどうするつもりだったんですか。」 「いや、泊は俺を殺さないだろう?」 「……どこからその自信が来るんだか。」 矢張り弾が無いというのは嘘だったのか。懐からもう一丁銃を取り出して男も構えている。 「…1つだけ、俺も聞いても良いですか。」 「なんだ。弱点は教えられないが。」 「いえ、そうではなくて…… 俺は貴方のことを何と呼べば良いんですか。」 「俺は柊(ヒイラギ)要(ヨウ)だ。部下からは総統と呼ばれている。」 「では総統。この国の王がいるのはあちらの部屋です。」 王座のある部屋まで案内し、そう告げる。
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