萌子の事情 ▼ 7.

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萌子の事情 ▼ 7.

 私の仕事は、データ入力だ。  伝票を仕分けし、時系列に並べ直す。チェックしながら、決まったフォームに入力していく。  1時間入力したら、休憩を取るように言われている。  私は隣の佐田さんに声を掛けて、フロアーを出た。  うーんと伸びをして、トイレに行く。  タイツは乾いたようだ。つまんで弾き、泥を落とす。  頭の中に、朝の光景が倍速でよみがえる。  あれ? お金をどこにやったんだったっけ……。覚えていない。  慌ててフロアーに戻り、自分の席の引き出しから、ロッカーの鍵を取り出す。 「あれ? 早かったね。次は私が行っていい?」  佐田さんが、伝票をそろえにかかる。 「ちょっと、ロッカーに忘れ物があって。もう少し行ってくるね」  佐田さんの返事を待たずに、飛び出した。  あれは、本当にあったことだよね? 幻想かな。妄想?  だって、1万円札がぴらんと、1枚なら落ちてることがあるかもしれない。それも、なかなかないだろうけど。  それが2枚だなんて、あり得ないでしょ。    たぬきに、化かされたかな。今見たら、葉っぱに戻ってるとか?  ガチャガチャと音を立てて、ロッカーを開ける。  リュックを背負ってたんだから、中には入れていないはずだ。でも、ペットボトルを入れるポケットに入れたかもしれない。  探ってみるが……無い。  どこ……? どこにある? やっぱり、幻?  コートのポケットかもしれない、と手を差し入れる。  紙のような感触がある。  取り出すと、紛れもなく1万円札だった。記憶通り2枚ある。  道端に落ちていたのを証明するように、少し湿り、砂が付いている。  本物だ……本当だったんだ。  私はへなへなと、その場にしゃがむ。  いやいや、遅くなってはいけない。佐田さんと交代しなくては。  私はロッカーの上に放り込んであった、通販カタログにお金を挟む。湿り気を取ろうと思ったのだ。  今度こそしっかりと脳裏に刻み、ロッカーを閉めた。  
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