萌子の事情 ▼ 8.

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萌子の事情 ▼ 8.

 入力しながらも、あの2万円のことが気になる。  お金を落とした人は、捜しているだろう。  それとも、気づいてないかしら。  いやいや私にとったら、2万円は大金だ。  財布から無くなったら、気づくと思う。   警察に届けて、誰かが「2万円落ちていました」と言ってくるのを待つかしら。  でも、お金に名前は書けない。  拾われても戻ってこないと諦めて、届けなんか出さないかな。  そう、お金に名前が書いてあるわけではないもの。  このまま、私がいただいても、誰にもわからないわよね。  2万円かあ。  口元が緩むのを抑えられない。  お給料から生活費を出したら、自分に使えるお金などほとんどない。  久し振りに、本屋さんに行こうかな。今はどんな本が出てるんだろ。  手芸屋さんにも行きたい。新しい花柄の生地が買いたいな。  でもそんなことより、やっぱり生活費の足しにした方がいいかな。  食費もやりくりしている。月末になると乗り切れるかハラハラする。  2万円あれば、余裕が出る。  実香に「買いたい物があるんだけど」と言われても、悲しいかな、いつもすっからかんだ。  財布を見てため息をつく。 「そうだよね。ママはお金無いよね」  いつも、胸が痛んでいた。  そうだ。実香に新しい洋服買ってあげようかな。    ほんとに、お金が無いのは情けない。  お金が無い私に、神様が同情してくれたのかもしれない。
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