萌子の事情 ▼ 9.

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萌子の事情 ▼ 9.

 昼になり、ロッカーからお弁当の入ったリュックを取り出す。  上段のカタログに目をやる。気になって、ページをめくってみる。  ちゃんとある。ほっとする反面、そわそわするし憂鬱にもなる。  フロアーの隅の来客スペースで、佐田さんとお弁当を広げる。  社員食堂もあるけれど、派遣社員がお昼にお金を使っていたら、何ほども残らない。残り物のお惣菜でも、十分お弁当になる。    佐田さんは食べ終わって、新聞を広げている。 「あら、万引きだって。え? 485円相当? それぐらいで新聞に載るなんて嫌よねえ。でも犯罪には違いないか」  私はぎくりとする。でも、私は万引きしたわけではない。 「ねえ、もしお金を拾ったとしたら?」 「交番に届けるでしょうねえ」  佐田さんはこともなげに返してくる。  私は、仮定の話というスタンスで聞いてみる。 「でも、財布なら持ち主がわかるだろうけど、現金がそのままだったら?」  佐田さんはうーんと考え込む。 「子どもみたいに律儀に、コインでは届けないかもね。千円札でも行かないか。一万円札なら、うーん、迷うわねえ。でも届けたら、どこで落ちてたかとか根掘り葉掘り聞かれるだろうなあ」  根掘り葉掘り。それは面倒だ。 「そうよね。反対に疑われたりして。誰かの財布から盗って、拾いましたって届けてるのかもとか」  佐田さんは笑い出す。 「そんな疑われ方はしないでしょ。もし他人の財布から盗んだとしたら、わざわざ届けたりしないで即インマイポケットするだろうし」 「そうか、そうよねえ」  自分の浅はかさに、ふへへへと間抜けた笑い方になる。 「でも、拾ったお金は、ついてるらしいわよ」  佐田さんは、上目遣いで含んだ物言いになる。 「ついてる? ついてるって、悪い物ってこと?」 「そうそう。ネットで出てたわ。交通事故にあったり、病気になったり、次々と悪いことになった家族がいたんですって。あんまり続くんで、お祓いに行ったら、拾ったお金をネコババしたなって言われたんですって。誰だ? って問い詰めたら、そこんちの息子がお金を拾って、浮かれて使ったことがあったんだって。思えばその頃からおかしくなったって」 「へええ。そ、それは怖いわね」 「あら、こんな時間。ちょっと行ってくるわ」  佐田さんは、昼休みに一服タバコを吸うのが日課だ。 「あ、う、うん」  私は、嫌な汗が伝うのを感じていた。
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