萌子の事情 ▼ 1.

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萌子の事情 ▼ 1.

 夫にお弁当を渡していると、雷が鳴った。 「え? 雷? 今日って、天気悪くなるの?」 「天気予報で降水確率、80%って言ってたぞ」 「ほんとに? 晴れてたから、洗濯物、外に干したよお」  外を見ると、いつの間にか空は黒雲に覆われている。  おざなりに「いってらっしゃい」と夫を送り出すと、慌てて階段を駆け上がる。サッシを開けて、ベランダに干してある洗濯物を取り込む。その間にも、雷が鳴る。 「ひゃあ!」 全部入れて、サッシを閉めた途端、バラバラと雨が降り出した。  ふう。間一髪だった。    雨降りだと厄介だ。  遅刻しないようにするには、早く出ないといけない。  3km先の職場に、いつもは自転車で通っている。  信号の待ち時間もあるけれど、20分程で着く。小雨ぐらいだったら、カッパを着て自転車で行く。  娘の実香の部屋のドアをたたく。返事が無いので、勢いよく開ける。 「おはよ。ママ、雨降りだから、早く出るわね。朝ご飯食べたら、ちゃんと食洗器に入れて回して行ってよ」  実香は布団の中で、ふがふが言っている。これは期待できない。とにかく、手早く支度して出かけなくては。     
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