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萌子の事情 ▼ 5. feat. 『あなたもモニタリング』 5.
私は背中を丸め、紙幣に顔を近づける。
紙幣はふんわりと二つ折りになっている。
きっと、二つ折りの財布に収まっていたのだろう。
でも、財布からお金が飛び出たら、気付くんじゃないかな。
もしかして……。
これって、何か理由があるんじゃないかしら。
例えば、誰かが故意にここに置いたとか……。
ここを通る人が、持ち去るかどうか観察しているとか……。
私は、すっと身を起こす。
カクカクとロボットのように首を回し、それらしき人の目がないか探る。
『萌子さんは屈んで、お金を見つめていますね。
ぜひ拾ってほしいですね。
おや? 姿勢を正しましたよ。
辺りを見回しています。何かを察したのでしょうか。
あ! こちらをじっと見ています。
目が合いました。気付かれてしまうでしょうか』
ぞわぞわとした気配を感じる。
けれど、それらしき車はない。周りの家もカーテンを閉ざしている。
気のせいだろうか。
もしも……拾ったら、どうなるのかしら。
犯罪に……なるのかしら……。
その時、一陣の風が吹いた。
私は慌てて、両手で1枚ずつ押さえる。
『あ! 萌子さん、大丈夫でしょうか。
転んだのかと思いましたが、そうではないようです。
手から放れた傘が、転がり始めましたよ』
あ! 傘が飛んでいく。
待って! 行かないで!
私は左手にお金を握ると、傘を追いかけてつかまえる。
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