6.幸せの階段

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あちこちで、蕾が開く音がする。 4月に入ると、あたたかな日も増えてきて、春の訪れをやっと実感できてくる。 玲奈はついに臨月となり、仕事は産休に入ったけれど、毎日近所をウォーキングしては、アクティブな妊婦ライフを過ごしている。 見るたびに大きくなる玲奈のお腹は、触れるとポコポコという振動を感じ、なんだか不思議で、彼女がとても神秘的な存在に思えた。 そして。 私と市谷さんも、変わらずに順調なお付き合いを続けている。 市谷さんが忙しいのは相変わらずだけど、合鍵をもらった私は、彼の家に泊まることも多くなり、一緒にいられる時間は以前よりもずっと増えていた。 それに比例して、私と市谷さんの関係もずいぶん深まったんじゃないかな、と心秘かに感じる今日この頃。 そんな、4月の半ばを過ぎた日曜日。 今日の私たちは、いつもよりスペシャルなデートをする予定になっている。 記念日でもなんでもないけれど、市谷さんが「たまには雰囲気のあるところに行こうか」と言ってくれ、海沿いのホテルにあるイタリアンレストランに連れて行ってくれるとのことだった。 二人で食事と言うと、私が市谷さんの家で料理を作るか、「住みよし」に行くことが多かった。 出かけ先でふらっと立ち寄るようなところも、カジュアルなお店ばかりだし、いわゆる「落ち着いた大人の店」に二人で行くのは初めてだ。 (楽しみだな。) ウキウキを出掛ける準備をしていると、同じくこれからデートだというお姉ちゃんが、にこにこしながら私に話しかけてきた。
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