本編

29/86
前へ
/91ページ
次へ
「慶太、そろそろ起きなさい。」 まだ夢の中にいたい…。楽しかった思い出に浸りたい、辛い思いをしたくない。 「慶太!」 「はい…おはようございます。」 無視したらいいのに、それができない。 あの低い声に逆らえない。逃げられないんだ。 「おはよう。今日は家にいなさい。」 「海斗は…?」 「海斗は学校に必ず行くように伝えている。何か話したいことがあるなら朝食の時にでも言いなさい。」 「…はい。」 自室に戻って服を着替える。1日家にいるなら適当でいいかとラフな服を選んだ。 「遅くなってごめんなさい。」 「さぁ、慶太も来たことだし食べようか。」 「「いただきます。」」 「慶太、家にいるからといってその服はダメだと思うが。天野家だと自覚を持ちなさいといつも言ってるつもりだが?」 「ごめんなさい。後で着替えます。」 「海斗、慶太に服を選んであげなさい。」 「はい。」 天野家の自覚も何も、家に閉じ込められているだけなのに。悲観的になってしまう自分も嫌いだ。 「じゃ、私は仕事に行ってくるよ。」 「ん…っ。」 まだ食べ終わっていないのに深いキスで混乱してしまう。 いい子で待っているんだよ。耳元の一言と頭を撫でる手は優しさなのか、心がきゅっとなるのは俺がおかしいからなのか…。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

286人が本棚に入れています
本棚に追加