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1 デートの約束
「おー、こっちだこっち」
待ち合わせた水族館の入り口ゲートで、秋場高広は大きく手を振った。
「いやー、来てくれてうれしいぜ。てっきりすっぽかされると思ってたからな」
そして相手が持っていた大荷物に気づき、すかさず代わりに持つと、
「すげぇな。弁当も作ってきてくれたんだ。これだけの量、大変だったろう」
「……」
しかし、高広の正面に立っているのは有坂龍一である。
可愛い女の子でも、高広の相棒の保でもない。
龍一は、ご機嫌を取るような高広の猫なで声にも一切答えず、ただひたすらに眉間にマリワナ海溝のような皺を寄せている。
「……あんたなぁ」
何を言っても糠に釘、のれんに腕押しと反応のない龍一に、高広は大きくため息をつく。
そして今日一日を平和に楽しく過ごすことを諦めた。
肩をすくめて、首を傾げると、
「水族館へ行くってゆーのにその恰好、正気かよ」
龍一は葬式へでも出むくような細身のブラックスーツ姿だった。
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