1 デートの約束

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龍一はなお一層、眉間のマリワナ海溝を深め、 「美百合にそんなものまで作らせて、どういうつもりだ」 高広が横取った弁当を指さす。 「それと、このメールの意味の説明を求める」 教えた覚えがないのに届いた、高広からのメール。 そこには、 『おたくの隠し子を見つけたぜ。みゆっちに黙っていて欲しかったら、以下の場所に来ること』 その指定の場所が、今日のこの水族館だ。 表情を変えず懐に手を入れる龍一に、高広は慌てて手を振った。 「まあ説明するから聞けよ」 それからニカッと罪のない笑みを浮かべ、 「弁当はみゆっちの好意だ。人のダンナを無断で連れ出すわけにはいかねーから、代わりに言っといてやった。感謝して欲しいくらいだぜ」 美百合の名前を使って脅したクセにこの言いぐさ。 高広の言動は龍一には理解不能である。 ただ、外出するとき龍一は、美百合にその理由を話さないから、高広が代わりに説明してくれたのは正直助かる。 黙って家を出て、後で美百合の機嫌を取るのはえらく骨が折れる作業だ。 だけど今朝は、美百合から玄関先で弁当箱を渡された。 「今日は高ちゃんとデートなんでしょう。これ持ってって」 「!」 秋場高広とデート! いったいどんな話を聞かされたのか。 ありえない! とんでもない! 天地がひっくり返っても、デートなんぞではない! そう強く言い返そうとしたが、美百合はニコニコと笑って見送ってくれる。 この笑顔といつもの面倒くささを天秤にかけて……、 結局、龍一は黙って弁当を受け取った。 ただ(はらわた)はふつふつと煮えたぎっている。
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