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龍一はなお一層、眉間のマリワナ海溝を深め、
「美百合にそんなものまで作らせて、どういうつもりだ」
高広が横取った弁当を指さす。
「それと、このメールの意味の説明を求める」
教えた覚えがないのに届いた、高広からのメール。
そこには、
『おたくの隠し子を見つけたぜ。みゆっちに黙っていて欲しかったら、以下の場所に来ること』
その指定の場所が、今日のこの水族館だ。
表情を変えず懐に手を入れる龍一に、高広は慌てて手を振った。
「まあ説明するから聞けよ」
それからニカッと罪のない笑みを浮かべ、
「弁当はみゆっちの好意だ。人のダンナを無断で連れ出すわけにはいかねーから、代わりに言っといてやった。感謝して欲しいくらいだぜ」
美百合の名前を使って脅したクセにこの言いぐさ。
高広の言動は龍一には理解不能である。
ただ、外出するとき龍一は、美百合にその理由を話さないから、高広が代わりに説明してくれたのは正直助かる。
黙って家を出て、後で美百合の機嫌を取るのはえらく骨が折れる作業だ。
だけど今朝は、美百合から玄関先で弁当箱を渡された。
「今日は高ちゃんとデートなんでしょう。これ持ってって」
「!」
秋場高広とデート!
いったいどんな話を聞かされたのか。
ありえない! とんでもない!
天地がひっくり返っても、デートなんぞではない!
そう強く言い返そうとしたが、美百合はニコニコと笑って見送ってくれる。
この笑顔といつもの面倒くささを天秤にかけて……、
結局、龍一は黙って弁当を受け取った。
ただ腸はふつふつと煮えたぎっている。
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