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龍一の剣呑な空気から逃れるように、
「まあ、続きは水族館に入ってからにしようぜ」
高広は購入済みのチケットをヒラリとみせ、
「楽しみにしてたんだからな」
踵をかえす。
入り口に向かう背後で、
「ふざけるな」
カシャンと銃身をスライドさせる音。
これ以上ふざけていると、本当に龍一に撃たれそうだ。
仕方なく両腕を軽くあげホールドアップしながら、
「慌てんなよ。楽しみにしてたのは俺じゃなく、あっち」
顎だけ傾けてみせる。
高広が示す先には、水族館の館内地図を夢中で眺めている少年の姿があった。
薄茶の髪に茶色い瞳。
幼いながらも大変な美少年だ。
「な」
高広は顎をあげて頭から振り返る。
「あんたの息子だろう」
断じてない!
と龍一が一刀両断に否定してみせることは簡単だ。
だが組織に属する者として、あらゆる自身のデータを取られた記憶がある。
その一部から、龍一の遺伝子を継ぐ者が生み出されている可能性は、――ゼロではない。
「DNA鑑定は」
龍一は銃を懐に戻しながら小声で尋ねる。
高広はニカッと笑った。
「まっ、続きは中で話そうぜ」
もう一度、水族館のチケットを扇のように振ってみせた。
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