9 デートはおウチに帰るまで

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確かに、イリヤを死んだことにするのが、一番の妙手だったと今ならわかる。 日本がロシアの要求を断れるわけがないし、断るにしても、長い長い交渉と途方もない労力が必要になる。 イリヤはまだ10歳なのだ。 これまでイリヤを安全に健全に育ててきたユーコフ博士に、軍配があがる可能性の方が高い。 それに中国。 あの国は、自分たちで情報を得て、イリヤを欲してきた。 高広の口先で煙に巻かれたアメリカ合衆国とは違い、中国は今後もしつこくイリヤを狙ってくるだろう。 『どんなウイルスの抗体にもなり得る、可能性のあるイリヤの遺伝子』 などという金になる実を、あの国が簡単に諦めるわけがないのだ。 だから、イリヤは殺された。 死ぬ必要があった。 正当な保護者のロシアがイリヤの『死』をその目で確認し、イリヤから手を引くと決めれば、もう世界中のどの国も、イリヤの死亡を疑わない。 中国も諦めるしかなくなる。 あの時龍一が言ったように、イリヤは死ぬことによって、ようやく本当の自由になれたのだ。
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