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そう、完全に自由になったはずなのに、
「なんで今さら帰るんだよ」
高広は唇を尖らせる。
研究施設に不満があるとイリヤは言うが、そんなもの本当の理由だとは思えない。
イリヤは一度、ロシアに捨てられたのだ。
高広に問われ、イリヤは言葉を探して、そして困ったように龍一を見上げる。
龍一は、イリヤを認めるように、うなずいてみせる。
イリヤは、
「いつまでも迷惑をかけられないから」
「メーワクなんかじゃねーよ」
高広は声を荒げる。
「ガキのくせに何いらん気ぃなんか使ってんだよ」
それから、
「誰がメーワクだなんて言った? そいつか?」
龍一を指さす。
「メシのひとつも用意しねぇ。このひと月、イリヤの様子も見に来なかった。そんなヤツの言うことなんか聞く必要はねぇんだ」
イリヤはあれからずっと高広の庇護の元にいた。
以前にも誰かを匿ったことがあるという、地下の隠し部屋に隠れていたのだ。
その部屋は高広の研究室にもなっていて、イリヤが必要とする研究機器にも不足はない。
だからイリヤが家を出て行く理由なんかどこにもないのだ。
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