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「テメェがくると、物事がややこしくなる」
高広はチッと舌打ちをして龍一を睨みつける。
「イリヤのことに、今さら口出してくんじゃねーよ」
龍一は高広を柳に風と受け流し、イリヤに向き直ると、
「イリヤとはずっと連絡は取っていたし、テレビ電話で顔も見ていたぞ」
イリヤの茶髪をポンポンと撫でる。
そして、
「そもそも、ロシアに帰る案を言い出したのはイリヤだ」
「ウソだ!」
「本人を前にして嘘をついてどうする」
言い負かされて高広はグッと詰まる。
逃げるようにイリヤに向き直ると、
「イリヤ、なんでだ」
もう一度聞いた。
高広にまっすぐに見つめられて、今度は、
「迷惑をかける」
なんて口先だけの言い訳は出来ない。
イリヤはキュッと唇を噛むと、
「……ボクの研究を世界に発表したい」
ポツリと言った。
「タカヒロの主義に文句を言うつもりはない、名声が欲しいわけでもない。だけどボクの研究は、――世界を救うんだ」
『どんなウイルスの抗体にもなり得る、可能性のあるイリヤの遺伝子』
その薬が出来上がったら、それは間違いなく世界を救う。
だが、薬に関わる利権がイヤで、イリヤはラボを逃げ出したはずだ。
それなのに、今さら何かが変わるとは思えない。
すると、
「ロシアへ帰れば、イリヤはフェドートヴィチ・ユーコフ博士として生きることになる」
龍一が言った。
「は?」
高広が振り返る。
龍一は、
「そうすることが、イリヤを帰す条件だ」
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