9 デートはおウチに帰るまで

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「テメェがくると、物事がややこしくなる」 高広はチッと舌打ちをして龍一を睨みつける。 「イリヤのことに、今さら口出してくんじゃねーよ」 龍一は高広を柳に風と受け流し、イリヤに向き直ると、 「イリヤとはずっと連絡は取っていたし、テレビ電話で顔も見ていたぞ」 イリヤの茶髪をポンポンと撫でる。 そして、 「そもそも、ロシアに帰る案を言い出したのはイリヤだ」 「ウソだ!」 「本人を前にして嘘をついてどうする」 言い負かされて高広はグッと詰まる。 逃げるようにイリヤに向き直ると、 「イリヤ、なんでだ」 もう一度聞いた。 高広にまっすぐに見つめられて、今度は、 「迷惑をかける」 なんて口先だけの言い訳は出来ない。 イリヤはキュッと唇を噛むと、 「……ボクの研究を世界に発表したい」 ポツリと言った。 「タカヒロの主義に文句を言うつもりはない、名声が欲しいわけでもない。だけどボクの研究は、――世界を救うんだ」 『どんなウイルスの抗体にもなり得る、可能性のあるイリヤの遺伝子』 その薬が出来上がったら、それは間違いなく世界を救う。 だが、薬に関わる利権がイヤで、イリヤはラボを逃げ出したはずだ。 それなのに、今さら何かが変わるとは思えない。 すると、 「ロシアへ帰れば、イリヤはフェドートヴィチ・ユーコフ博士として生きることになる」 龍一が言った。 「は?」 高広が振り返る。 龍一は、 「そうすることが、イリヤを帰す条件だ」
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