9 デートはおウチに帰るまで

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龍一はあっさりと、 「本物のユーコフ博士は不要と判断した」 と言った。 と言うからにはのユーコフ博士を用意したのだろう。 その上での交渉。 一体どんな交渉をしたのか。 想像して、寒気がした。 しかしラボには、長年ユーコフ博士と研究を共にしてきた研究員がいるはずだ。 いくらなんでも、その研究員たちには、ニセモノであることはすぐにバレる。 だが、龍一は、出来ないことは口にしない。 きっと今のラボには、ニセモノのユーコフ博士でもかまわない、入念な下地が出来あがっているのだ。。 それは……。 龍一が言っているのは、ユーコフ博士の暗殺、などという簡単なことではない。 龍一は、高広の家にイリヤを預けっぱなしにしたこのひと月の間に、 ロシアの国家予算がつぎ込まれるようなバイオテクノロジー研究所の人員のすべてを、龍一の息がかかった人間に総入れ換えしてしまった。 こともなげに、そんなことが出来てしまう有坂龍一という男の恐ろしさを、ユーコフ博士は身をもって知ることになった。 気づいた時にはもう、手遅れだったのだろう。 周りの人間はいつの間にかひっそりと代わり、仲間だと思っていた人間のすべてが敵に回っている。 そしてユーコフ博士の味方はひとりもいない。 だからユーコフ博士は、イリヤにラボの実権を渡すことを承諾し、お飾りの代表者になることを了承の上で、わざわざ日本までイリヤを迎えに来たのだ。
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