48人が本棚に入れています
本棚に追加
龍一はあっさりと、
「本物のユーコフ博士は不要と判断した」
と言った。
本物のと言うからにはニセモノのユーコフ博士を用意したのだろう。
その上での交渉。
一体どんな交渉をしたのか。
想像して、寒気がした。
しかしラボには、長年ユーコフ博士と研究を共にしてきた研究員がいるはずだ。
いくらなんでも、その研究員たちには、ニセモノであることはすぐにバレる。
だが、龍一は、出来ないことは口にしない。
きっと今のラボには、ニセモノのユーコフ博士でもかまわない、バレない入念な下地が出来あがっているのだ。。
それは……。
龍一が言っているのは、ユーコフ博士の暗殺、などという簡単なことではない。
龍一は、高広の家にイリヤを預けっぱなしにしたこのひと月の間に、
ロシアの国家予算がつぎ込まれるようなバイオテクノロジー研究所の人員のすべてを、龍一の息がかかった人間に総入れ換えしてしまった。
こともなげに、そんなことが出来てしまう有坂龍一という男の恐ろしさを、ユーコフ博士は身をもって知ることになった。
気づいた時にはもう、手遅れだったのだろう。
周りの人間はいつの間にかひっそりと代わり、仲間だと思っていた人間のすべてが敵に回っている。
そしてユーコフ博士の味方はひとりもいない。
だからユーコフ博士は、イリヤにラボの実権を渡すことを承諾し、お飾りの代表者になることを了承の上で、わざわざ日本までイリヤを迎えに来たのだ。
最初のコメントを投稿しよう!