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「……なんて、過保護な野郎だ」
高広は開いた口が塞がらなくなった。
子どもに最高の環境を整えてやるのは、保護者として立派なことだが、まさかここまで大胆なことをやらかすとは思わなかった。
だがそれなら、
「体には気ぃつけてな」
イリヤを止める理由はなくなった。
龍一の息がかかったからには、もうイリヤの暗殺を心配する必要もないだろう。
イリヤは、
「タカヒロ、ありがとう」
礼を言って、
「母を超え父を殺して、大人になれって」
「なんだその物騒な格言は」
「リュウイチが教えてくれた」
高広は呆れたと龍一を見やる。
「それがあんたの言う、自立の定義ってか」
龍一はおどけたように肩をすくめただけで、どうとも答えなかった。
どうもイリヤに接するほど、素直になる気はないらしい。
でもそんな龍一の定義が、イリヤを思う存分、自由に生きさせるなら幸いだと、高広は矛を収める。
子どもはいつか必ず、親を超えて羽ばたいていく。
それが早いか遅いかだけの違いだ。
イリヤにとってユーコフ博士は育ての親であることに代わりはない。
その親を超えていくことを、なんだったら殺すことも、龍一は否定しない。
言葉通りの物理的な殺人を薦めているわけではなくて、ただそうすることに罪悪感を抱くなと龍一は言っている。
「親を慕うなら、堂々と胸を張って殺して踏み超えて行け」
と。
また我が子に殺され超えていかれることに喜ばない親はいないと、これまた厳しい格言を中に含んでいる。
ではいつか、自分たちもイリヤに踏みつけられ殺される日が来るのだろうか。
まあそれはそれで、『楽しみだ』と高広は素直に思えた。
玄関を出て行くイリヤを、高広はまるですぐそこのコンビニへ出かけるかのように、
「いってらー」
軽く見送る。
門出に湿っぽいのは似合わない。
イリヤも、
「うん、いってきます!」
明るく笑って手を振った。
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