9 デートはおウチに帰るまで

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「……なんて、過保護な野郎だ」 高広は開いた口が塞がらなくなった。 子どもに最高の環境を整えてやるのは、保護者として立派なことだが、まさかここまで大胆なことをやらかすとは思わなかった。 だがそれなら、 「体には気ぃつけてな」 イリヤを止める理由はなくなった。 龍一の息がかかったからには、もうイリヤの暗殺を心配する必要もないだろう。 イリヤは、 「タカヒロ、ありがとう」 礼を言って、 「母を超え父を殺して、大人になれって」 「なんだその物騒な格言は」 「リュウイチが教えてくれた」 高広は呆れたと龍一を見やる。 「それがあんたの言う、自立の定義ってか」 龍一はおどけたように肩をすくめただけで、どうとも答えなかった。 どうもイリヤに接するほど、素直になる気はないらしい。 でもそんな龍一の定義が、イリヤを思う存分、自由に生きさせるなら幸いだと、高広は矛を収める。 子どもはいつか必ず、親を超えて羽ばたいていく。 それが早いか遅いかだけの違いだ。 イリヤにとってユーコフ博士は育ての親であることに代わりはない。 その親を超えていくことを、なんだったら殺すことも、龍一は否定しない。 言葉通りの物理的な殺人を薦めているわけではなくて、ただそうすることに罪悪感を抱くなと龍一は言っている。 「親を慕うなら、堂々と胸を張って殺して踏み超えて行け」 と。 また我が子に殺され超えていかれることに喜ばない親はいないと、これまた厳しい格言を中に含んでいる。 ではいつか、自分たちもイリヤに踏みつけられ殺される日が来るのだろうか。 まあそれはそれで、『楽しみだ』と高広は素直に思えた。 玄関を出て行くイリヤを、高広はまるですぐそこのコンビニへ出かけるかのように、 「いってらー」 軽く見送る。 門出に湿っぽいのは似合わない。 イリヤも、 「うん、いってきます!」 明るく笑って手を振った。
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