青い目のきみ。

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 わたしは学生時代、カナダに一年間住んでいました。その思い出は今になっても忘れることのできないものです。無論すべての思い出が良いものであろうはずもなく、なかには苦い経験として私の中に生き続けています。  カナダに移住して三か月が経った頃、一人の女性に会いました。スタイル抜群でうつくしい青い目の彼女。話す言葉はもちろん英語。人生で初めて英語によるデートをすることになりました。  お互いのことをあまり知らないまま迎えた当日。予定より早くレストランに到着したわたしは、すっかり緊張してしまいました。生温かい汗が背中をつたい、落ち着こうとすればするほど呼吸が早くなる。恐らく傍から見ていたら、挙動のおかしいアジア人だと思われていたかもしれませんね。  ポケットの中のスマホに着信が届きました。 「少し遅れるかもしれないから先にお店に入っていてほしい」  彼女からのメッセージを了承したわたしは予約しておいたレストランの席に着きました。コップに注がれた水を飲みながら待っていると彼女はすぐにやってきました。彼女を一目見た瞬間、わたしは息をのまずにはいられませんでした。  ———彼女はとても美しかった。  わたしたちは軽く挨拶を交わした後、注文を終えました。照れ笑いを交えながら会話が始まりました。しかしそれも束の間、わたしはすぐにトイレに避難せざるをえませんでした。 理由はただ一つ、英語がわからなかったのです。相手の話している内容の半分しか理解できず、自分の考えを半分しか表現できない。どうやって会話をすればいいのか分からなくなりました。鏡の中のわたしはほとんど泣き出しそうでした。  意を決して席に戻りましたがその夜を楽しむことはできませんでした。自分の不甲斐なさと相手の女性に対する申し訳なさでいっぱいでした。そしてわたしは決心しました。きちんと英語を学ぼうと。  次の日から私の生活は大きく変わりました。生活が英語を中心に回り始めました。ニュースを見たり本を読んだり友達とでかけたり。寝るとき以外はほとんどが英語で充ち溢れました。ゆっくりとそれでも確実に。そんな英語まみれの生活は海外での生活を終え、日本に帰ってきた後も継続しました。  時は経て、そんな若かりし日を懐かしく思えるほどになりました。その思い出を妻に話すとこんなことを言っていました。  「わたしもあんなにつまらなかった初デートは経験したことなかったわ。でもあなたが必死になってわたしのことを褒めてくれて、知ろうとしてくれたことが嬉しかったの。そしてわたしの直感は間違っていなかった。あなたといれることが幸せなの」  「英語」というひとつの言語はわたしの人生を大きく変えてしまいました。幸せにしてくれました。そして家族を与えてくれました。間違いなく英語を学んでよかったと思います。  先月、そんな我が家には新しい家族の一員が加わりました。愛おしい我が子は、うつくしい青い目をしています。
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