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リイネと毒の花がある部屋は特殊な空間だった。花が育つために大切なものがすべてそろっている。小川のせせらぎ、木々からもれる光、季節に合った空気や湿度が調整され、一年中、好きな花を咲かせることができる。リイネは素足だった。足の裏から感じるひんやりとした草の感触は本物だ。ラキが極秘に開発したこの部屋は、リイネとラキしか知らない。この部屋のことを知れば、屋内であっても四季を操作することができる画期的な屋内施設を世界中に造ることができた。四季どころか北極も砂漠も再現できる。地下シェルターのモデルとなるだろう。地上で住めなくなっても地下で快適に暮らせる。地球上で暮らしていた時と同じように。
そんなことラキが許さなかった。
地球の自然を愛するラキは自然淘汰の道を選ぶ。少なくとも兵器や行き過ぎた環境破壊のせいで地下で暮らす道筋をつくりたがらなかった。ラキが開発しなくても誰かが造るよとリイネは言ったことがあったが、その時は自分はこの世にはいないと顔を歪ませていた。
人類の発展と平和を願いながら、裏では人を殺す兵器や薬品が造られる。裏には表があり、表には裏があるのは承知のうえでもラキには見過ごせることではなかったのだ。
汗ばむ陽気と爽やかな風が吹くこの時期は、日本の初夏を再現している。地球上に、いつまでこの美しい季節が残るか疑わしいものだ。
リイネの耳に破壊音が聞こえる。この部屋からは遠いはずだが、耳をふさぎたくなるような音だった。
「運が良ければラキは生き残るでしょう」
ラキの眠る仮眠施設には万が一のため、脱出用の小型飛行機がある。ラキとリイネの二人が乗るだけの小さなものだ。災害に見舞われるようなら、脱出もやむを得なしと考えた造ったものだった。
にっこり笑ってリイネは花の入ったガラスケースを両手でとろうとする。すぐに手をとめて考えた。
「あなたの名前、決めてなかった」
美しく咲き誇る花は何も言わない。この花を生み出したのはラキだが、手伝ったのはリイネだ。自分にもこの花の名前をつける権利はあるだろうと考える。
「毒の花や破壊兵器じゃあんまりよね。あなた、とってもきれいだもの」
考えている内に新しい爆発音が届く。あちこちに仕掛けた爆弾は、この島ごと吹き飛ばす威力を持っていた。計算しつくした爆弾の配置を思い浮かべ、時間があまりないことにため息をつく。
「時間がなくてごめんなさいね」
頭の中で花の名前をいくつか思い浮かべてみる。可憐に見えるがそんなことはない。インパクトがあり大きな影響力を持つ花だ。そう、例えば……
「バース、誕生はどうかしら?生命が生まれる瞬間は美しいものよ。それから…」
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