誇り高き花

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仮眠室へ行く前、ラキはひとつの新しい発見をした。人の命を奪うための研究を続けていたラキは、見事に毒の花を生み出した。人類だけを滅亡させ他の生き物は残す。 何かを生み出す際、副産物が現れることもある。今回、毒の花を生みだす過程で、人の命を救う花が誕生した。 赤黒い薔薇のような花ではなく、刺のない小さなピンク色の薔薇の形をした花だった。この時ラキは手の平に薬品がかかり、軽いやけどを負っていた。大したことがなく、自分で手当てができるのでリイネには黙っていた。仮眠室へ戻る前、ピンク色の薔薇の花に手をのばしたら、ラキのやけどがキレイに治ったのだ。驚いたラキは軽く小指に傷をつけ、再び薔薇の花に手をのばす。すると、薔薇の花びらに触れるか触れないかの内に、傷などなかったかのように治ってしまった。 ラキは複雑な思いを抱えたまま仮眠室に向かった。人の命を奪う花と、人の命を救う花。どちらも生まれてきたことに、どうにも落ちつかなかった。明日リイネに相談しようと考えて意識を手放しかけた時、爆発損で意識が浮上したのだ。 ラキはすっかり迷いが晴れて嬉しかった。リイネの行動に悲しみは覚えても、それ以上にラキは思いもかけぬ喜びに満たされていた。 「リイネ、君は人類の未来を信じるんだね?」 口元に笑みが浮かんだ。ラキは温室へ向かうとピンク色の薔薇の苗と、種をありったけ持ち出し、連絡用に使うドローンのようなものに荷物を括りつけて空高く飛ばした。ラキの予想が正しければこの島はすべて吹き飛ばされる。そうなる前に避難させるのだ。 それからラキは近くに仕掛けられているであろう爆弾のそばに向かい、コードを書き換える。いくつか同じ動作を繰り返し、ラキはその場にへたり込んだ。 「これで島の上半分が吹き飛ぶだけですむだろう」 空高く上がったドローンはイチかバチかだ。炎がおさまり、いつもの土を取り戻すころこの島にまた戻ってくるように設定した。 「誰かに見つかる可能性もあるし、本当に運任せだ」 パチパチと火のはぜる音に振り向く。ラキのいる場所には大きな爆弾が仕掛けられている。おそらく数秒後には爆発するだろう。一瞬に満たない時間の中で思い浮かんだのは、リイネの笑顔だった。ずっと好きだった。これからもきっと好きだろう。自分の手は殺りく兵器をつくってばかりで汚れてしまったけれど、リイネはいつだって清らかだ。でないとこんなことはしない。 「メシア、メシアがいいな。花の名前。きっと誰かの助けになる。それから花言葉は…」 慈悲、その言葉が脳裏に浮かんだところで、ラキの思考は途切れる。炎と煙に巻かれてラキを表す何かは、ひとつも残らなかった。
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