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やさしい居場所 1
「はあ、疲れた。」
とぼとぼと帰り道を歩いていた。逢魔が時はとっくに過ぎて今は8時をゆうに過ぎている。所々で黒い影が蠢くのが見える。時々こちらに寄ってくるような動きを見せるが、見えない壁に阻まれている様な感じで、一定の距離以上は寄ってこない。
幼い頃はこの黒い影が怖くて、よく母や祖母に泣きついていたっけ、今はもうそんなもん、寄ってこなければ害はないと開き直ってそのままにしている。害のない物も見えていたが、小さい頃は見分けがつかずに周りの人を困らせて居たが、ある程度の年齢になってきたら、自分は他の人と違う物を見る事ができると自覚が出てきて、何も言わない様になった。
他の人についている時を見かけた事もあったが、自分ではどうする事もできず、ただ傍観しているだけだった。その後憑かれている人がどうなったかは知らない。知りたくもない。
そんな事よりも、今まで自分が何をしていたか、これからどうすればいいのか全然わからない。歩き方すら忘れてしまった様、ただ惰性で歩いている様なものだった。仕事をしている意味も、意義も見いだせず、自分が何のためにその職に就いていたのかももはやわからなくなっていた。
なんとなく、資格が取れたら将来何かあったときのためになるだろうなと思って、大学の学部を決め、なんとか資格を取って卒業したものの、何の目標も目的もなく日々の仕事をこなすだけ、自分に何ができるのか、何をしたいのかわからなくなってきた。自分のしていることが本当に役に立っているのか、自分が今就いている職である必要はあるのかどうかわからない。
ならばいっそのことやめてしまうのはどうかと思った。ちょうど長年溜まりに溜まったストレスのせいで体調を崩してしまったこともあって、これを機に仕事を辞めた。
この前まで就いていた職以外の道を探すのもいいかもしれない。
そんなことをつらつらと考えながら歩いていた。
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