3話

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3話

「ごめん!待たせた?」 「大丈夫です。そんなに待ってないですから。」 日曜日。 約束通り映画を見るために、待ち合わせ場所にやってきた。 10分も早く着いたのにすでに立ってるなんて、一体どれぐらい前からいたんだか。 何回かこうして一緒に出かけてるけど、いつも早いのよね。 今日こそはって思ったんだけどな。 「じゃあ行きましょうか。」 「そうだね。ところで、今日はどんな映画見るの?」 「ホラーです。」 「ホラー?」 「はい。なかなか怖くて面白いって聞いたので。」 「そっか。ホラーか…」 私、ホラー苦手なのよね。 怖いというよりも、驚きすぎて心臓が痛くなるというか。 だってあんな急にバーンって出てきたら、そりゃビックリするでしょ。 あとは音。効果音とかBGMとかも容赦なく驚かせてくるし。 叫ばずにいられる自信がない。 「もしかして、怖いの苦手でした?」 「怖いのが苦手っていうか、驚くのが苦手?別に怖いわけじゃないのよ。」 「もし怖かったら俺に掴まってくれてもいいですよ。」 「そういうのは好意を持ってる女の子に言いなさいね。もし私が勘違いしたらどうするのよ。」 「大歓迎ですよ?むしろ真奈さんだから言ってます。」 「はいはい。ほら、さっさと行くよ。」 「…どう言ったら本気にしてくれるんだろ。」 「はーやーく!」 「はーい!」 ************ 「ねえ、成海君。3Dとは聞いてないんだけど。」 映画館に入った後、渡された物に驚愕しながら席に着く。 普通に見るのでさえ驚くのに、3Dなんて無理なんじゃないのかな、私。 「すみません。俺もまさか3Dとは…ちゃんと見ておけば良かったですね。ごめんなさい…」 そんなにしょんぼりされたら、これ以上は言えないじゃない。 ああ、頭に垂れた耳が見える。 「まあ、知らなかったものはしょうがない。案外平気かもしれないしね。だからそんなにしょげないの。」 「ありがとうございます…本当、真奈さんって優しいですよね。」 「そんなことないよ。こんなんで優しいとか言ってたら、そこら中に国宝級の優しさを持った女の子がいることになるわよ?」 「そんなことありますよ。真奈さんはいつもさりげなく優しいです。俺は、真奈さんのそういう所が好きなんですから。」 ”好き”というワードに一瞬ドキッとしてしまった。 成海君が言ってるのは、人として、みたいなことだって。 何一瞬ときめいちゃってんの私。 「あ、もうすぐ始まりますね。ちゃんと装着出来ましたか?」 「え?あ、うん。これで大丈夫だと思うんだけど、ちょっとズレちゃうかな。」 「う~ん。真奈さんには少し大きいんですかね?ちょっとだけ触りますよ。」 「え…」 成海君の腕が近づいて来たと思ったら、指が耳に触れた。 微調整してくれているようだけど、内心それ所じゃない。 久しぶりに男の人に触れられたっていうのもあるけど…男性っぽい指の感触や近づいた時の匂いに、ドキドキしてくる。 さっき一瞬ドキッとしたせいだわ、絶対。 「これで多少はズレにくくなりました?」 「う、うん。ありがとう。」 「真奈さん?どうかしました?」 「な、何でもないよ!それより映画始まるから見よう。」 「はい。」 納得出来て無さそうな素振りだけど、映画が始まったことで意識がそっちに向いてくれたようだ。 助かった。 ドキドキしたなんて、そんなこと言えるわけない。 いくら懐かれてるからって、勘違いだけはしないようにしなきゃ。 「……ひっ!」 映画が始まって数十分。 私の両手は、成海君の左腕を掴んでいる。 いやだって、やっぱ3Dだからいつもよりビックリ度合いが高くて。 突然目の前に顔が出てきたら、叫びたくもなるし何かに掴まりたくもなるでしょ。 周りからも、チラホラ女性の叫び声が聞こえているから、ちょっとぐらい声だしてもいいよね。 「…ひぃぃっ!」 きゃあっとか可愛らしい驚き方が出来ない自分が心底残念だけど、そんなことには構っていられない。 「真奈さん、怖かったらもっとくっついてもいいですよ?」 左腕をガシッと掴んでいると、成海君に小声で話しかけられた。 でも意味が分からない。 もっとくっつくってどういう事? 「もっとって…」 「こうしたほうが落ち着くんじゃないですか?」 成海君の右手に誘導されるがままにしていると、両腕で左腕に巻き付く格好になった。 いや、さすがにこれはダメでしょ。 恋人でもあるまいし。 近すぎだよ。 「これはちょっと…」 「俺はこの方がいいです。真奈さんを近くに感じられて俺も安心する。真奈さんもこの方が怖くないでしょ?」 いくらこの方が怖くなくても、ちょっとね。 やっぱりさっきの方が… 「…ぎゃあっ!!」 目の前に突然現れた恐ろしい顔に、左腕に更にぎゅっと巻き付いてしまった。 …前言撤回。 成海君には申し訳ないけど、終わるまでこのままでいさせてもらおう。 「大丈夫ですか?真奈さん。」 「なんとかね…」 映画を見終わっても、まだ目の前に顔が浮かんでるみたい。 ホラーは3Dで見るもんじゃないわ。 心臓痛い…絶対寿命縮まった。 そういえば、ずっと彼の腕に力いっぱい掴まってたけど、大丈夫なのかな? 「ごめんね、腕痛くない?結構力入れちゃってたんだけど…」 「全然大丈夫ですよ。真奈さんの力ぐらいで痛くなる程やわじゃないですし。」 「大丈夫ならいいんだけど。後で痛くなったりしたら教えてね。」 「…その時は、真奈さん看病してくれますか?」 「そりゃ出来ることはするよ。」 私のせいなんだし。 もしかして、やっぱり痛いのかしら。 「じゃあ、痛くなったらいいのにな。そしたら真奈さんと一緒にいられるのに。」 「何言ってんの。痛くない方がいいじゃない。本当に、痛くないのね?」 「残念ながら痛くありません。真奈さんの力が弱いせいですよ。もっと力強く抱きついてくれたら良かったのに。」 充分力いっぱいだったんだけど。 さすがに男の人ね。 「この後どうします?カフェでも行って少し休憩しましょうか。」 「そうだね。そうしてくれるとありがたいかも。」 「じゃあ、いいお店あるのでそこに行きましょう。はい。」 目の前に出された手に、思わず目を瞬かせる。 「行かないんですか?」 「行く、けど……?」 差し出されたままの手。 もしかして立たせてくれるってことだろうか。 驚きすぎて、ちょっと脱力してるからありがたい。 遠慮なく捕まらせてもらおう。 右手を伸ばして捕まると、難なく立ち上がらせてもらえる。 さすが。 「ありがとう。」 「いいえ。じゃあ行きましょう。」 「え、ちょっと待った!手そのままなんだけど。」 握られたままの右手を見る。 さすがにダメでしょ。 「ダメですか?」 「当たり前でしょ。恋人でもあるまいし。」 「じゃあ恋人になってください。」 「あのね、そういう冗談は…」 「冗談だと思いますか?」 え…何でそんな急に真剣な顔するの? 「成海君…?」 「…すみません。困らせるつもりじゃなかった。…とにかく、今は力も入らないでしょうから、繋いでてください。こけたりしたら大変ですから。」 「うん…」 今はいつもと同じ柔らかい表情だけど… さっきのは何だったんだろう。
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