5話

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5話

「悪い。待たせたか?」 「大丈夫。敬之の場合は私が待つって分かってたし。」 「待たせて悪かったよ。っていうか、それ誰と比べてんの?」 「え?何が?」 「俺の場合はって。」 …あ。 私、気付かない内に成海君と敬之を比べちゃってた? 敬之に悪い事言っちゃったな。 「ごめん。最近待ってもらう方が多かったから…。」 「ふーん。まあいいけど。行くか。」 「うん。」 でも何で、成海君と比べちゃったんだろう。 最近成海君と出かける事が多かったからかな。 「かんぱーい!」 「乾杯。お疲れ。」 職場の飲み会以外で居酒屋なんて、久しぶりかも。 成海君とはいつも夜になる前に別れてたしね。 「この焼き鳥美味しそう~。」 「ここのは美味いぞ。俺が保証する。」 「敬之がそう言うなら間違いないね。いただきまーす。」 おお。ジューシーだ。確かに美味しい。 つくねも軟骨とシソが入ってる! 好きなんだよね~、こういうつくね。 「お前が好きな味だろ?」 「うんうん。大好きこういうの!さすが元彼って感じ。」 「…なぁ真奈。」 「何~?」 「やり直さないか?俺と。」 本当美味しいな、このつくね。 後でもう一回頼も…って… 「…え?」 「あの頃はさ、お互い仕事で色々任せられるようになって、真奈も俺も大変だったろ。お互いを気にする余裕も無くて、今は仕事頑張ろうって別れたけど…今の俺なら、どんなに忙しくてもああならない自信がある。」 「別に私とより戻さなくても、他にいっぱい…」 「俺は、別に真奈の事を嫌いになったわけじゃない。本当は、仕事が落ち着いてから何度か真奈に電話しようと思ったんだ。だから番号も残してた。結局、お前に恋人が居たらとか考えて出来なかったけどな。」 「敬之…」 「だから今日お前が担当だって知った時、驚いたけどラッキーだとも思った。恋人もいないって分かったし、実は凄く喜んでたんだ。」 全然分かんなかった… 敬之って、昔からあんまり表情に出ないタイプだからな。成海君と違って。 「今日久しぶりに会ったばかりでこんなこと言われても困るか?それとも…好きな奴が居る?」 「それは…」 ~~~~♪ ん?成海君からだ。 何かあったのかな。 「ごめん。電話いい?」 「どうぞ。」 「ありがと。…もしもし、小原です。」 「真奈さん、お疲れ様です。今もうお家ですか?週末の事相談しようと思って。」 「あ~…ごめん成海君。私まだ外に居て…今じゃないとダメかな?」 「俺明日から出張だから、色々決めるの今日の方がいいかなと思ったんですけど…。誰かと、一緒ですか?」 「うん、まあ。」 「…もしかして、今日の担当さん、ですか?」 「え…っと…」 うんと言っていい物なんだろうか、これ。 別に担当さんと飲みに行くのは悪い事じゃないんだろうけど… 「…何処ですか、今。」 「駅前の居酒屋だけど。」 「…分かりました。とりあえず一旦切りますね。」 「うん。ごめんね。また後で。」 後で時間空いた時にこっちからかけなきゃ。 「何かあったのか?」 「ううん。大丈夫。また後でこっちからかけ直すし。」 「それならいいけど。…相手、職場の男?」 「うん。」 「…そいつの事が好きなのか?」 「は?!」 「親しそうだったから。」 私が成海君を、好き? 「いやいや、だって向こうまだ25歳だし。6歳も年下だよ?」 「年齢は別に関係ないだろ。」 「そう、かもしれないけどさ…」 「まあ、別にそいつとどうもないって言うんなら俺には喜ばしいことだけど。…俺は、今でも真奈の事が好きだから。返事は別に急がないけど、それだけ知っておいて欲しい。」 「うん…」 ダメだ。敬之の顔がまともに見れない… どうしたらいいんだろう。 敬之とは嫌で別れたわけじゃないし、私も嫌いなわけじゃないけど… 昼間の成海君の話も気になるし、敬之のことは考えないといけないし、今日は色んなこと起こり過ぎで…… 「真奈さんっ。」 「え…ええ?!成海君?どうしたの!?」 「どうしたのって…迎えに来たんですよ。」 「迎えにって…え、よくこのお店が分かったね?」 「虱潰しに探しました。と言っても、2店目ですけどね。」 ビックリした~… でも、何で迎えに? 「…なるほど。君が成海君?」 「初めまして。真奈さんと親しくさせてもらってる成海怜央と言います。」 「聞いた限りじゃ君は”まだ”ただの同僚のようだけど、真奈を迎えに来てまで連れて行く理由は?真奈は俺と飲んでるんだけど。」 「…真奈さんに大事な話があるので。申し訳ないですけど、真奈さんは俺が連れて行きます。」 「そうか。…真奈、彼と帰っていいぞ。」 「へ?」 「その変わり、少しだけ彼と話があるから、離れた場所でちょっと待ってろ。」 「成海君と話って何?」 「いいから。男同士の大事な話があるんだよ。」 「真奈さん、すぐ行くので少しだけ待っててください。」 「…分かった。」 何だろう、この雰囲気。 喧嘩とかにならなければ良いけど… 「じゃあ、お店の入り口辺りで待ってるね。あ…敬之、今日はありがとう。ご馳走様。」 「おお。また今度な。」 「…うん。」 男同士の話って何なんだろう。 あれから5分近く経つけど… 「真奈さん、すみません。お待たせしました。」 「私は大丈夫だけど…成海君大丈夫?」 「大丈夫ですよ。帰りましょうか。家まで送ります。」 「うん…」 成海君、やっぱり様子が少し変。 敬之と一体何があったんだろう… 「あの…送ってくれてありがとう。」 「いえ…」 結局家まで殆ど会話らしい会話が無かったな… いつもは明るい成海君がどうしたんだろう? 「じゃあ…」 「真奈さん、待って。今、少しだけ俺に時間下さい。」 何だろう? 「あの人に、よりを戻そうって言われたのは本当ですか?」 え、何で知って… あ…敬之から聞いたのかな。 「…真奈さんは、あの人の事が好きなんですか?」 「それは…嫌いでは無いけど、そういう好きかは…正直今はまだ分からない。」 「じゃあ、俺の事はどう思ってますか?」 「え?」 「…俺は、真奈さんの事が好きです。同僚としてなんて見てません。前からずっと、1人の女性として好きです。」 「う、そ…」 「だから、俺と真剣に向き合って欲しいんです。1人の男として、真奈さんが俺をどう思うか。」 「…それが、昼間に言ってた事…?」 「はい。…本当は、もっと色々と準備をしたかったんですけどね。でも、その間に他の男に取られるのなんて、嫌だから。返事は急ぎませんし、ゆっくり考えてください。…でも、出来れば俺だけの真奈さんになって欲しい。」 成海君… 「俺、明日から週末まで出張なので、しばらく会えないから…一つだけ我が儘言ってもいいですか?」 「…なに?」 「手、握りたいです。映画に行った時みたいに。」 「…うん。」 「ありがとうございます。じゃあ、手貸してください。」 「はい。」 「…」 「成海君?」 どうしたんだろ。手見つめたまま動かない。 「どうかしたの?…って、うわっ」 危なっ… って、え…抱きしめられて、る…? 「…すみません。急に引っ張ったりして。どうしても我慢出来なくて…俺、本当に真奈さんが好きなんです。だから、あの人に取られたくない…。」 「成海君…」 そんな、今にも消えちゃいそうな声出さないでよ… 泣きそうになるじゃない… 「…ごめんなさい、急に抱きしめたりして。でも、俺が真剣だってことだけは分かって下さい。真奈さんの事、他の誰よりも好きな自信ありますから。…明日早いので、俺はこれで帰りますね。出張から戻ったら、一番に連絡します。…おやすみなさい。」 「…うん、おやすみ。気を付けて、帰ってね。」 「はい。じゃあ、また。」 「はぁ…一体私に何があったっていうの…」 この数年、恋愛系のイベントなんて起こらなかったのに。 今日だけで、敬之と成海君に告白されるなんて… 「ダメだ…全然思考が追い付かない…」 一体どうすればいいの…
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