1195人が本棚に入れています
本棚に追加
6話
「今日も、1人ランチか…」
成海君が出張に行ってから3日。
ずっと1人でお昼休みを過ごしてる。
誰かと一緒にっていうのも考えたけど、何だかそんな気分にもならなくて。
お店に1人で行くのも気分が乗らない。
だからコンビニばかり。
1人のお昼休みなんて、一体いつぶりなんだろう。
それぐらい前の事な気がする。
「へぇ。案外屋上って人いないものなのね。」
オフィスで食べるのも飽きちゃったから屋上に来てみたけど、まさか誰も居ないなんて。
静かな環境の方が今は落ち着くからいいけど、カップルの1組や2組ぐらい居るのかと思ってた。
社内恋愛してる人達何人か知ってるんだけどな。
「さて、いただきます。ーーうん、美味しい…」
ウソ。
本当は全然美味しくない。
大好きなはずなんだけどな、サンドイッチ。
…何か、食欲無いな。
「成海君が居たら取られちゃうな。」
”食べないなら貰っちゃいますよ”とか言って。
「あーあ…」
成海君が居る時は、美味しくないなんて感じた事無かったのにな。
「声も、聞いてない…」
思えばこの半年、休日以外でこんなに成海君と離れた事無かったな。
”真奈さん”ってじゃれてくる、いつものあの感じが欲しいなんて…
「会いたいな…」
……そっか。私、成海君が居なくて寂しいんだ。
自分でも今、まさかの感情にビックリしてるけど。
年下だしって思ってたのに。
私の事なんて女性として見て無いって。
『俺は、真奈さんの事が好きです。』
あの時、ちょっとドキドキしてた。
敬之にやり直そうって言われた時は、どうしたらいいんだろうって気持ちが大きかったのに。
「私も、好き…」
ちゃんと分かったから。
成海君の事、男性として好きだって。
「早く、会いたい…」
”真奈さん”って笑いかけてくれる成海君を恋しいって思う日が来るなんて、予想もして無かったけど。
久しぶりのこういう気持ちは、全然悪くないな。
「ごめんね、待たせた?」
「いや、大丈夫。何か飲む?」
「じゃあ、コーヒーで。」
「了解。すみません、コーヒー1つ。」
「少々お待ちください。」
敬之をカフェに呼び出したのはいいけれど…
さて、どうやって切り出そうかな。
「で、話って?」
「ああ、うん…えっと…」
「告白の返事?」
「うん…」
ちゃんと言わなきゃ、敬之にも失礼だよね。
「あのねっ…」
「成海君の事が好き。」
「え…」
「違ったか?」
「違わない、けど…何で?」
「そんなの、あの日の真奈見てたら分かる。」
え?!
私自身今日のお昼間に気付いたのに、何で敬之が分かっちゃってるの?
「真奈は鈍感だからな。俺が前に告白した時も、周りは全員気付いてたのにお前だけ気付いてなかったし。…まあ今回は、そのまま自分の気持ちに気付かなければいいって思ってたけどな。」
「…ごめん。」
「真奈が謝る必要はないだろ。俺が遅すぎたんだよ。…あの時、怖がらずにちゃんと連絡してたら今頃は…まあ、後悔してももう遅いけど。」
もし、もっと前に敬之と再会してたら…
敬之とやり直してたんだろうな、私。
だってあの後、私も敬之の事結構引きずってたから。
「敬之…ありがとう。また会えて嬉しかった。やり直そうって言ってくれたことも。でも、私は成海君が好き。だから、ごめんなさい。」
「ん。分かった。」
「もし、担当が私じゃない方が良ければ…」
「いや。仕事に私情を持ち込むつもりは無いから。急に担当変えてくれなんて変に思われるだろうしな。だから、これからは取引先の担当ってことで、よろしくな?」
「…うん。よろしくお願いします。」
ありがとう。
敬之に好きになってもらえて、私は本当に幸せ者だね。
************
「成海君、今日帰ってくるはずだよね。何時頃なんだろう。」
ちゃんと聞いておけば良かったな。
週末だし、午前中に戻ってくると思うんだけど。
「電話、してみようかな…」
そういえば、プライベートで私から成海君に電話するのって実は初めてなんじゃ…?
え、何か妙に緊張してきた。
やっぱりメッセージにしようかな。
それとも、出張から戻ってきたら連絡するって言ってたから、待とうか…
「いやいや、それじゃダメでしょ。」
私も好きって、ちゃんと伝えると決めたんだから。
もし電話に出られないとしても、着信は残るから後で気付いてくれるはず。
「…よしっ。せーの…って」
~~~♪
「えっ…も、もしもし!」
「もしもし、成海ですけど…真奈さん、出るの早くないですか?」
「ちょ、丁度スマホ触ってたからねっ。」
「そうなんですか?それにしては何か焦ってるような…」
そりゃ焦るよ。
かけようと思った瞬間に相手からかかってきたんだから!
でも、成海君の声聞くの久しぶり…
何かちょっと安心するな。
「真奈さん?どうかしましたか?」
「会いたいな…」
声聞いたら、成海君に会いたくなっちゃった。
「え…今、会いたいって言いました…?」
「…え?」
……私声に出してた?!
「俺の聞き間違い…?」
「…間違ってないよ。あのね、成海君に伝えたい事があるの。…私、成海君の事…っ」
「ストップ!!」
「え?」
何で?
「真奈さんそれ、告白の返事しようとしてます?」
「え、うん。そうだけど…」
「だったら、ちゃんと会って聞きたいです。」
「会って…?」
「はい。今からすぐに行くので、少しだけ待っててください!」
「え、あの、成海く…!切れちゃった…」
どうしよう。
私スッピン部屋着なんだけど。
とりあえず着替えてメイク…
ピンポーン♪
まさか成海君なんて事…
って、成海君じゃない!
いくらなんでも来るの早くない?!
…電話しよう。
「もしもし、成海君?」
「真奈さん、もしかして今家に居なかったりします?」
「ううん、家には居る。」
「じゃあ開けてくださいよ。」
「あのね、申し訳ないんだけど…私スッピンな上に部屋着なの。だから少し待っててくれるとありがたいというか…近くで時間潰しててほしいかな、なんて。」
「嫌です。早く開けてください。」
「嫌ですって…」
女心を分かって~!
「…早く会いたいんです。真奈さんに。」
「う…」
それは、私も同じだけど…
「どうしても、ダメですか…?」
「いや、あの…」
そんな寂しそうな声出されると…
「…分かった。今開けるから、待ってて。」
「はい…!」
私も、早く会いたい気持ちは同じだから。
「い、いらっしゃい。」
覚悟を決めて玄関を開けたはいいものの…やっぱり恥ずかしくてまともに顔を見れないな。
「…可愛い。」
「へ?」
「スッピンでも部屋着でも、滅茶苦茶可愛いです。」
「…あ、ありがと……」
そんな事面と向かって言わないで欲しいんだけど。
恥ずかし過ぎて転げ回りたい気分だわ…
でも、今はそんな事してる場合じゃないか。
まだ成海君に大事な事ちゃんと伝えてない。
「あの…告白の返事、聞かせてもらえるんですよね?」
「うん。ここじゃあれだから、上がって?」
「え、いいんですか?」
「ちゃんと伝えたいしね。どうぞ。」
「…お邪魔します。」
男の人を部屋に入れたのなんて、ここに引っ越してからは初めてだな。
「コーヒーでも入れようか?」
「いえ、それは後でいいです。それよりも、真奈さんの返事が聞きたい。」
「…分かった。」
あ~…すごく緊張する…
でも、ちゃんと伝えなきゃ。
「…私ね、成海君と離れてみて気付いたの。自分がどれだけ成海君と一緒に居るのが当たり前になってたのか。この4日お昼休みを1人で過ごしてみて、前に他の女子社員誘えばいいのになんて言ったこともあったけど…いざ成海君が居ないと何を食べても美味しくなくて、食欲も無くて。」
敬之のことや成海君のこと。
色々考えなくちゃいけなくて混乱してたとはいえ、今まで何があっても、それこそ失恋しても食欲だけはいつでもあったから、自分でも衝撃だった。
「真奈さんって、いつもみたいに笑いかけてもらえなくて寂しかった。会えなくて、声も聞いてなくて…成海君が近くに居ないことが辛かった。私にとって、成海君が特別な人なんだってやっと気付いたの。」
「真奈さん…」
「私は、成海君の事が好き。だから……って、わわっ…」
「嬉しい…凄く嬉しいです。」
また抱きしめられちゃった。
でも今日は、この温もりがすごく嬉しい。
好きな人に抱きしめてもらうのって、幸せだな。
「本当は、少し不安だったんです。俺が出張で離れてる間に、あの人に取られちゃうんじゃないかって。だけど今は、真奈さんがそう思ってくれたんなら、離れて良かったって思います。」
もし出張が無くて、成海君がいつもと変わらず傍に居たら気付かなかったかもしれない。
逆に、ギクシャクしてたかもな…
「俺からも、改めて言わせてください。俺は、真奈さんの事が本気で好きです。だから、俺の恋人になって下さい。…できれば、最後の。」
「え…?最後って…」
「…ゆくゆくは、そうなればいいと思ってます。それぐらい、本気ってことです。…重い、ですか?」
「…ううん。驚いたけど、嬉しい…」
私もちゃんと成海君の事が好きだから、それぐらい真剣に好きになってもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「はぁ~…良かった…正直、これ言ったら真奈さんに引かれちゃうかなって思ってました。じゃあ…俺の最後の恋人になってくれますか?」
「…はい。」
「もう絶対、離しませんからね…」
「んっ…」
触れてきた成海君の唇は、優しくて、とても熱かった。
最初のコメントを投稿しよう!