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「真奈さん、もうお昼行けそうですか?一緒に食べましょう。」 「昨日も一緒に行ったじゃない。」 「昨日は昨日、今日は今日ですよ。一緒にお昼に行きたいんです。ダメですか?」 「ダメってわけじゃないけど…」 「じゃあいいじゃないですか。ほら、行きましょう?時間無くなっちゃいます。」 「うん。」 私の隣に立つ彼ーー成海怜央は、入社3年目。仕事が出来ると評判の若手のエース。 いつもニコニコしていて社交的なタイプで、見た目は穏やかななごみ系。 そんな彼にお昼ご飯を誘われるのは、昨日や今日、1度や2度のことではなく、ほぼ毎回。 どちらかが仕事が立て込んでいる時ぐらいじゃないのかな、別々なのは。 こんな年上で、仕事の事になると課長にすら食って掛かるような女じゃなくて、もっと若くて可愛い子を誘えばいいのに。 期待のエースに誘われたら、皆付いて来ると思うんだけど。 「今日はどこの店に行きましょうか。昨日はあそこだったから……って真奈さん、ちゃんと聞いてますか?」 「え?…ああ、ごめんごめん。何だっけ?」 「今日はどこのお店に行きますかって。」 「ああ、お店ね。う~ん…今日はちょっと出遅れちゃったから、定食屋さんにする?あそこならまだそんなに混んでないと思うから。」 「いいですね。何定食にしようかな~」 あれかな?これかな?と悩んでいる姿が、どこか子供っぽい。 それが妙に可愛いと思えるんだから、懐かれて絆されてるのかもな。 「真奈さん、さっき何考えてたんですか?」 予想通り席が若干残っていた定食屋に入り、注文したメニューが来るのを待っていると、思い出したように質問される。 「仕事の事ですか?何だか難しい顔してましたけど。」 「違うよ。」 「じゃあ何ですか?」 グイグイくる辺り、全く引く気はなさそうだ。 何でそんなに気になるんだか。 「君の事。」 「俺?」 一瞬キョトンとした後に、何故か満面の笑顔になる成海君。 「真奈さんが俺の事考えてくれるなんて嬉しいです。」 「何でそこで喜ぶの。」 何かもう、嬉しい!と言うのがビシビシ伝わってくる。 そんなに喜ぶことかな? まあ、こういう所に絆されてしまってるんだろうけど。 「あ、でもあんな難しい顔しながら考えてたってことは…俺、何かやらかしました?」 一瞬にしてションボリした表情になる。 その頭には、垂れ下がった耳でも見えそうだ。 「何もやってないからそんなに凹まないの。私じゃなくて、もっと若くて可愛い女子社員をランチに誘えばいいのになって思ってただけよ。」 「へ…?」 「成海君なら、どんな女の子でもきっと付いて来るだろうに。先輩に義理立てしてるんなら、別にいいんだよ?」 何度かパチパチと瞬きをした後、今度は何故かムッとしている。 「真奈さん。これだけは言っておきたいんですが…」 「何?」 「俺は別に、義理で真奈さんを仕方なく誘ってるわけじゃないですから。俺が真奈さんを誘いたくて誘ってるんです。だから、他の女子社員を誘えばいいなんて2度と言わないでください。」 「う、うん…分かった…」 何が彼をそんなに怒らせたのか分からないけど… まあ、私と一緒に食べたいって言うんだからいっか。 もしかしたら、仕事の事とか相談したいのかもしれないしね。 後輩の面倒を見てあげるのも先輩の務めよね。 「お待たせしました。日替わり定食です。」 「じゃあ、食べましょうか。」 いつもの笑顔になっている成海君に促され、いただきますの声が重なる。 それにしても、本当に懐かれちゃってるんだな。 多分、部署異動してきたばかりの彼を手伝ってあげてからだと思うんだけど。 あんなの当たり前のことだけど、あの時期はそれだけプレッシャーを感じてたって事か。 美味しそうに日替わり定食のコロッケを頬張る成海君を見ながら、半年前の記憶が蘇ってきた。
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