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本編
「天心……っ、好きだ、好きだ、抱かせてくれ」
志童の甘ったるい声が、直接的な欲望を訴えてくる。
実家の2階、教科書やマンガの並ぶ自分の部屋で、俺はコイツに追い詰められていた。
ガキの頃は金魚のフンみたいにあとをついてきていた志童がこんなふうになるとは思わなかった。
お互いに十八歳の誕生日を過ぎた今、彼は俺より頭ひとつ分も背が高い。
「何考えてるバカ」
腕を突っ張って巨体を押しのけようとしたが、俺の背中が磨りガラスの窓に押しつけられただけだった。
ハッとして後ろの窓枠に腕を突く。
その間にヤツは片ひざを俺の脚の間にねじ込ませてきた。
ヤツの高ぶったそれが、俺の太腿の付け根に密着する。
張り詰めた硬さと熱にぞくりとした。
「し、志童……」
見上げると、熱に浮かされたような瞳と目が合う。
「俺、バカだけど本気だから」
熱い息を吐き出し、志童が耳元に唇を押し当てた。
「だからっていきなり犯そうとすんな!」
「だって、離れるなんて耐えられない! 天心と一緒になりたい」
コイツは、今ここで思いを遂げれば二人一緒の未来が手に入るとでも思ってるんだろうか。
明日には俺は大学進学のため、このド田舎を離れ東京へ向かう。
一方の志童は家の都合もあって、地元の大学への進学が決まっていた。
「志童、俺たち男同士だから結婚できないからな?」
「でもセックスはできる、ここ使って」
「ひっ!」
腰の後ろから回ってきた手に、尻の穴の辺りを撫でられた。
「俺、男同士でもセックスできるんだって知った時、天心とできるんだって思って嬉しかった」
「できねーよ! 俺が同意してないもん」
「同意してください」
「絶対にイヤだ! っていうかお前それ……」
ただでさえデカい志童の体が膨れあがり、ふさふさの尻尾と耳が揺らめいて見えた。
志童の家は犬神憑きの家系で、コイツにはガキの頃から犬神が憑いている。
一方俺の家は拝み屋の家系であって、コイツに憑いた犬神を鎮めるのは俺の役目みたいなものだった。
「お前コーフンすると犬が出るだろ、やめろ!」
コイツは、犬神の影響でヒトより本能に忠実だ。
「やめたくない、天心とえっちする!」
「くそっ! 犬ごと封印するぞ!」
窓辺でもみ合いになるが、犬神の力が宿った志童には腕力では敵わず……。
(マズい、犬を鎮める前に俺がヤられる!)
貞操の危機に、本気の冷や汗が出た――。
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