本編

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「てんしーん!!」 常人には見えない尻尾を、志童は勢いよく振っている。 (狸は逃がすし犬は来るし、最悪だ……) 「落ち着け、っていうか重い、離れろ!」 背後から抱きしめてくる腕をすり抜け、俺は志童から距離を取った。 「どうして、俺がここにいるって……」 「近くまで来たら匂いで分かる。天心のお爺ちゃんから、だいたいの居場所は聞いてたし」 志童は自慢げに鼻を鳴らす。 コイツは犬神の影響で、昔から人並外れて耳と鼻がいい。 (コイツを使えば、人捜し、ペット探しの案件はだいたい片づくんじゃないのか?) ふとそんなことを思って見上げたところで、俺は自分の首の角度が前と違うことに気づく。 「お前……しばらく見ない間にまたデカくなった?」 「うん、1年で1センチ伸びてる」 「ハタチ過ぎても伸びるのかよ、育ちすぎだろ……」 俺もそこまでデカくなりたくはないが、頑張っても小柄な俺からしたら小憎らしい。 「天心は相変わらずちっちゃくてかわいいね!」 「それ……次言ったら犬ごと封じるからな……」 「もしかして、今でも女の子に間違われてナンパされたりする?」 「その質問も、もっかい言ったら殺す!」 威嚇(いかく)してもニコニコしているデカい男を見上げ、思わず深いため息が漏れた。 * それから俺は依頼者である雑木林の持ち主に状況を報告し、志童を連れて近くの公園に移った。 「で、体ちょっと見せてみ?」 朽ちかけたベンチに座ると、街灯からのオレンジ色の光が俺たちを包み込む。 「爺さんが、熱があるとか言ってたけど……」 志童の首筋に触れると、そこはじんわりと汗ばんでいて熱かった。 「んー、最近ずっとそう。いつも体が火照ってぼーっとしてる。お医者さんは原因不明だっていうけど、いつものアレだよね?」 物の怪に取り憑かれた人間は、それだけで体力と精神力を消耗する。 子供の頃から体の中に犬を飼っているコイツは、ときどき原因不明の熱に冒されては俺を頼ってきていた。 「だろうな、口開けてみろ」 短く言うと、志童は従順に従う。 彼の口の中に指を入れ、健康そうな白い奥歯をきゅっと押してみた。 体の芯になるべく近い場所に触れることで、体内にいる犬神の力を感じ取ることができる。 「……確かに、だいぶ()まってんな。中和しないと」 志童の額に手を当てて、自分の霊力を注ぐことで犬神の妖力を散らす。 4年も触れていなかった彼の額が、すっと手のひらになじむのを感じた。
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