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生き残ってるのは私ともう1人。
勝利を確信していた。
このゲームは課題をクリアし、謎を解いて進んでいくものだ。
前回と課題があまり変わらなかったため、私は有利だった。
もちろん、もう1人と協力して2人で勝ち抜くことだってできたが、そんなのごめんだ。
だって、分け前が減る。
「ねぇ、今日の夜が最後の課題ね」
ふぅ、と彼女が息を吐いた。
「私達、無事に生き残れるかしら。2人で……」
不安そうな声だった。
調子を合わせて、頷く。
「ね、これが終わったら何がしたい?私、あの子を迎えに行くわ。きっと寂しがってるもの……」
そう言う彼女は病気を持ってる幼い息子のためにゲームへの参加を決めたと話していた。
息子を両親に預け、出稼ぎにと一人で身を粉にして働いていたが生活は楽にならない。そんな時に招待状が来た、と最初に語っていた。
「私も……まずは父さんに会いに行こうかしら。もう何も心配しなくていいって伝えるの。それから、そうね、ふふ、父の好物のシュークリームでも二人で食べようかな」
私がそう語ると彼女はにっこりと微笑む。
二人で顔を見合わせて笑った。
せいぜい今のうちに親近感でも抱いていればいい。絶対に蹴落としてやる。
二人で勝ち抜くなんてごめんだ。賞金の分け前が減るじゃないか。
あんたの病気がちのガキなんて知ったこっちゃない。
気持ちいいことしてできてしまった失敗作の人間がなんだ。
「嘘でしょう」
不意に彼女がそう言った。
「は?」
思わず声が出る。
「あんたの父親死んでるでしょ?自分のために金が欲しいって素直に言えばいいのに。何が食べたいって?キャビア?フォアグラ?」
そう彼女がまくしたてながら私の襟首を掴んでくる。
「子供の話でもすればちょっとくらい同情するかと思ったけどいけしゃあしゃあとしやがって」
「ちょっと、離して!触らないで!」
彼女の手を振り払い、距離を取る。
「なんなの?子供のためだから勝ちを譲ってくれって?死んでくれって言うの?」
突然、態度の変わった彼女に対して動揺がないわけではなかったが、話をしようと言葉を紡いだ。
「まさか。あんなクソガキ、三年前に風邪こじらせて死んだわよ。私が遊んでいるうちにね」
彼女が冷たく言い放つ。
嘘をついていたらしい。それはお互い様だ。別に構わない。
「私はお金が欲しい。毎日美味しいもの食べて、海外旅行にたくさん行って、男遊びだって派手にしたいし、ブランドの服もバッグも靴だって買える。それを望んで何が悪いの?」
はは、と笑いが漏れた。あまりにも素直に彼女が語るからだ。
私と彼女はどうやら同じらしい。自分のことしか考えてない。でも、それの何が悪いの?
「でも、残念ね、私、2回目なの。最後の課題の答えだって知ってる。今はあんたのことどうやって蹴落とすかだけ考えてるわ。せいぜい答え探し頑張れば?」
かっ、と彼女が目を見開く。
一瞬だった。
彼女が持っていたナイフが私の腹に深々と刺さっていた。
一応、確認するが、人殺しはゲーム上でもルール違反だ。
あくまで課題をクリアするのがゲームの本質だから。
あー、と彼女が叫ぶ。
「あー、あー、あー、智、ごめんね」
引き抜かれたナイフはべっとりと血で汚れていた。床に無造作に放り投げられる。
痛いというよりは熱い。血が止まらない。
この女、私を刺しやがった。死ぬ、どうしよう。
彼女は馬鹿みたいに叫んでる。
お金が欲しかった。
お金がなかったから。
私は何か間違っていただろうか。
人の命よりお金を求めたから?嘘をついたから?他人を蹴落としたから?
でも、自分の幸福を望むことの何が悪いんだろうか。
最後にふと食べたいと思ったのは贅を尽くした料理なんかじゃなくて、昔お母さんが作ってくれた肉じゃがだった。
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