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かの国とは、クレナ国の隣にあるソラ国のことだ。大昔、二国は一つの国であった時代がある。時の王は、自らの子ども二人を跡継ぎ候補としていたが、どちらも優秀であったことから、国を二つに分けてそれぞれ統治させることになったと言う。姉が治めることになったのが現在のクレナ国。弟が治める国はソラ国と名付けられた。
二国は長きに渡って文化を共有し、協力し合って周辺諸国からの侵略の脅威に立ち向かってきた。それ故、二国を併せて双子国と呼ぶ者もいる。
もちろん、王族同士の交流もある。年に一度、新年には国境付近の宮で宴が催されるのだ。その折、コトリは件の王子の人柄に触れ、恋に落ちたのだった。
「ワタリ兄上、それは真にございますか?」
「あぁ。お前の想いを知る父上が、わざわざ確認してくださったのだ。間違いない」
コトリは一瞬訝しげに目を細めたが、すぐに俯いて分かりやすく肩を落とす。高く結上げられた紅の髪に刺さる金の簪が、小さく揺れた。
「その通りだ、コトリ。お前の幸せを思うからこそ、この縁談を用意したのだ。お前に見向きもしない馬鹿な男など捨て置け」
「帝国ならば、ソラ国とは比べ物にならぬ程の強大な力を持っている。お前が嫁いだ暁には、我が国の後ろ盾となってくれることであろう。国民も皆、此度の縁談を祝福するにちがいない」
コトリは、父親と兄の猫なで声に肌が粟立つのを感じた。そもそも王である父親が、本当にコトリのことを顧みたことなど、これまで一度とて無い。せいぜい駒の一つだという認識に過ぎないだろう。
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