148人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、王女という身分に相応しくない程の早業だった。妖しく光るものがコトリの懐から現れる。
「待て! 早まるな!」
コトリの手には小刀が握られていた。少女の細い首に沿えられている。
これまで、どんな馬鹿げた命令でも全て素直に応じてきた。しかし今回ばかりは、譲ることができない。この縁談に応じることは死と同義なのだから。
文化も違えば言葉も違う。地理的にもクレナ国からは遠い。嫁いだところで、どうせ死ぬのを待つようにして生きるか、望まぬ男女の関係を強要されて心身共に壊れてしまうのがオチだろう。
しかも帝国からすれば、クレナ国など干菓子よりも脆くて弱い国である。婚姻を結んだところで、本当にクレナ国が帝国の傘に守られて安泰となる保証は無い。どちらかと言えば、コトリは体の良い人質なのではないか。クレナ国が帝国の属国として搾取され、奴隷のように扱われることも考えられる。
「コトリ、そんな怖い顔をするな。死ぬのだけは駄目だよ」
最初のコメントを投稿しよう!