148人が本棚に入れています
本棚に追加
ワタリはコトリに近づいて小刀を取り上げようとする。しかし、どこか緩慢な動作で、切迫感に欠けていた。確かに、抵抗するコトリを傷つけずに制止することは至難の業だが、それを差し置いても不自然さが際立っていたのだ。
「兄上、本気でおっしゃっているのですか?」
その瞬間、ワタリの顔が硬直したのをコトリは見逃さなった。
「やはり、それが本音なのですね」
「いや、違うんだ」
ワタリが慌てて言い募るも、目が泳いでいる。コトリは眉を下げて、今にも泣き出しそうな顔になった。
「コトリ。王族の使命を忘れてほしくなかっただけだ。許しておくれ」
コトリは唇を固く結んだまま、視線だけでワタリに拒否感を示す。すると王が仲裁をしようと口を挟んできた。
「コトリ、将来ワタリは次期国王となる。こんな事で仲を違えるのは賢明ではない」
コトリが帝国に嫁いだ後、クレナ国と交流をしたいのならばワタリに従順であらなければ便宜を図らないということを示唆しているのだ。
コトリは、ぷっと頬を膨らませて上目遣いをした。そろそろ二つ目の爆弾を投下する頃合だと判断したのである。
最初のコメントを投稿しよう!