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望まぬ縁談
ここはクレナ国の王宮。精緻な草花の柄のレリーフが彩る朱色の柱と、権威と豊かさをを誇示する金細工が四隅に置かれた部屋での出来事だった。
秘め事を周囲に漏らさぬよう配慮された墨色の御簾が、四方に降りている。そんな閉ざされた空間にいるのは、三人の王族であった。
「お断りいたします」
その声は、淡々としていながらも強い決意が滲み出ている。
国王は、娘の初めての反抗に驚きを隠しえなかった。
目の前に座す少女の名はコトリ。赤の衣に薄桃の背子、鶯色の裳と紅の紕帯を合わせ、白い領布を纏っている少女だ。
これまで王女として厳しく教育されてきたことから、父親たる王に対し、こんな応えをした前例は無い。
凛とした佇まいを崩さず冷静に放った問題発言に、王よりも早く反応を示したのはコトリの兄、ワタリであった。
「この縁談は受けるべきだ」
此度の縁談は、オリハルコン帝国、通称帝国からのものである。ここ、クレナ国からは遠く離れた西の大国だ。
「しかしながら、既に私は他のお方が」
コトリは、想い人の姿を思い浮かべて言い募る。ここで折れるわけにはいかないと、拳を固く握りしめた。
ところが、父王と兄はコトリの思いなど、どこ吹く風。それどころか、とんでもない事実を突きつけた。
「かの国の王子には別の想い人がいるようだぞ」
【大雑把な用語解説】
背子はベスト、
裳はロングスカート、
紕帯はベルト的な帯、
領布は、肩からかけるショール、
というイメージでお願いします。
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