2人が本棚に入れています
本棚に追加
「黙れっ!」
過熱していく村人たちの声。それを黙らせたのは、戦士の一喝だった。
あまりの迫力に気おされたか、広場は一瞬で静まり返った。
「じゃあ、どうして嘘を吐いた」
戦士は落ち着いた声で問いかける。
「お前たちの主張は分からんでもない。別に間違っているとも思わん。貴重な資源を村の為に使うのも、その為に魔物を殺すのも大いに結構。だが、何故嘘を吐く必要がある?」
戦士の問いかけに答える者はいなかった。
「自分たちが間違っていないと思うなら、『採掘の邪魔になっている魔物を殺してくれ』と最初から正直に依頼をすれば良いだろう。さっき俺が『村人を攫った魔物はこいつか』と尋ねた時、違うと言えば良かっただろう」
村人たちを糾弾するかのように戦士は言葉を続ける。
「それなのにお前たちは、コイツを『村人を襲う悪い魔物』にでっち上げようとしたんだ。村や自分たちの利益の為に、悪さをした訳でも無い魔物を殺す。それを後ろめたく感じているからこそ、お前たちは嘘を吐いて誤魔化そうとしたんじゃないのか!」
誰も、何も言えなかった。
バツが悪そうに俯き、視線を逸らす。そんな村人たちの顔には「俺は悪くない」と書いているようだった。
そんな村人たちの姿を見て、戦士は嘆くように溜息を吐き、檻の中で大人しくしていた獣に視線を向ける。それが合図だった。
獣は檻の床を強く蹴って跳躍した。
衝撃に檻が揺れる。木造の檻はその衝撃で容易く損壊し、獣は檻の外へと躍り出た。
それまで黙していた村人たちが、途端に悲鳴を上げて逃げ回る。
獣はその様子を憐れむような眼差しで、ただ見つめていた。
「ぜ、ゼノン殿。奴が逃げだして――」
「偽りの依頼を遂行する義理は無い」
狼狽えながらも戦士に助けを求める村長だったが、戦士はその頼みを一蹴する。村人たちの悲鳴に背を向けて、そのまま村を去っていくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!