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「おい」
村を出て行った戦士に背後から声が掛かる。あの獣だ。
「どうした。何か用事でもあるのか?」
「何故人間たちの味方をしなかった。依頼とやらが嘘だったとは言え、我を屠ればお前は金を手にし、村は繁栄する。我を生かす理由は無いだろう」
獣は不思議そうに問いかける。
「最初から正直に依頼を受けていれば味方をしただろう。お前の言う通り、別にお前を生かしておく理由も無いしな。俺を騙そうとする奴や、自分すら嘘で誤魔化すような連中が気に入らなかっただけだ。それと、強いて言うなら……特に人間側に肩入れする理由もない」
そう言って戦士はおもむろに兜を脱いだ。
何も無かった。
本来そこにあるべき頭が影も形も無かったのだ。
「貴様、リビングメイルだったのか」
「人間だ、なんて言ったか?」
獣も驚きの声を上げた。
リビングメイル。その名の通り動く鎧。最初から、中に人など入っていなかったのだ。
「だから特に人間に肩入れする道理も無い。じゃあな、沼地の王」
それだけ言うと、戦士は再び兜を被り何処かへと去っていく。
「変な奴だ」
人間の依頼を受けて魔物を討つリビングメイル。珍しいものが見れたと楽し気に笑うと、美しい白銀の獣は、己の庭である沼地を優雅に闊歩するのだった。
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