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「清貴が大切なのは私じゃないんだね。私たちこれから結婚するんだよ。普通私のことが大切だったら少しでも不安を取り除くためにここで電話してくれるはずだよね。ちゃんと確認して安心させてくれるよね。いつもだったら私もこんなこと言わないよ。でも昨日あんな手紙が届いて不安だから確認してほしいってお願いしてるの。私がこんなに言ってもフットサルの友達に電話をしてくれないってことは、私の不安なんて清貴にとってはどうでもいいんだね」
「なんでそんな考えになるんだよ」
「電話しないってことは、女性と何かあったって思われても仕方ないんだからね」
「なんかさ、遥菜のそういうとこ俺すげー嫌。自分の意見ばかり主張して、人の言うことなんて全く聞かずにいて。疑われるこっちの身にもなってみろよ」
「私今まで清貴の前でこんな態度になったことないよ。ずっと清貴のこと信じてたんだから。でも清貴が私にそうさせてるんでしょ」
「あー、超めんどくせー」
「もういいよ。わかった。私帰る。ここからひとりで帰れるから」
私は車を降りてバターンと大きな音を立ててドアを閉めると、そのまま道なりに歩き始めた。
車を停めていたコンビニからどんどん距離が離れていく。
こんな気持ちじゃ結婚なんてできないけれど、これから一緒に静岡の実家に行くことにしていたのに、清貴はどうするつもりなのだろうか。
歩きながらショルダーバッグからスマホを取り出し、清貴から何か連絡があるかと何度も画面を確認するも何も連絡はなかった。
もしかしたら後ろから『遥菜ごめん、俺が悪かった』と追いかけてきてくれるかも……と期待してみたけれど、そんな期待も虚しく、どんなに歩き続けても清貴が追いかけてきてくれることは全くなかった。
私は途中で実家に電話をして、急なクライアントのスケジュール変更で仕事が入りどうしても出社しないといけなくなったと装い、また日を改めて行くと両親に告げた。
電話を切った途端、堪えていた涙が頬を伝い始める。私は流れ出した涙を止められないまま自分の家へと帰っていった。
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