理人Side④ -初めての気持ち-

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佐山さんに呼ばれたチャラそうな男と、派手なショッキングピンクのドレスを着た女が遥菜を見て顔色を変えている。 「町田、こちらは綾瀬不動産の綾瀬常務だ。うちとは何度か仕事をさせてもらったことがあるから挨拶はさせてもらっているよな?」 「はい、以前ご一緒に仕事をさせていただいたことはあります。ですがこうして面と向かってお話させてもらうのは初めてで……」 その男は俺に名刺を差し出して挨拶を始めた。 「綾瀬常務、初めまして。スノーエージェンシーの町田と申します。以前2回ほどラ・フェリーチェシリーズのマンションでご一緒に仕事をさせていただきました。覚えていらっしゃいますでしょうか」 「ああ、確かに顔は覚えているんだが、直接は話したことがなかったから……、申し訳ない。町田さんですね、綾瀬です」 俺も町田と名乗ったその男に、こういう場ではあまり渡すことのない自分の名刺を渡し、挨拶を返した。 「町田、なんと綾瀬常務がうちにいた桜井さんと結婚されたそうだ。君のアシスタントをしてくれていたあの桜井さんだよ。今日はそれを聞いて本当にびっくりしてな。うちにいた時も綺麗で可愛かったが、以前にも増して美しさに磨きがかかっているよな」 ニコニコと笑顔を向ける佐山さんとは対照的に、その男は口角だけを上げて笑顔を作ると、遥菜の顔をじっと見つめていた。その視線が腹立たしくて仕方がない。 「桜井さん、お久しぶりです。結婚おめでとうございます。まさかこんなところで会うとはびっくりしました。元気でしたか?」 遥菜は珍しく何も答えず、薄っすらと笑みを浮かべて小さく頷いていた。 「あっ、そうだ。桜井さん、町田も来年の春に結婚するそうだ。彼女は総務にいた西田さんだ。我々営業とはあまり接点がなかったけれど、覚えてないかな?」 佐山さんが遥菜に告げたのに、その女性は俺に媚びを売るような笑顔を向けて挨拶を始めた。
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