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俺が大和社長と親父たちに告げに行っている間、疲れている遥菜にその場で待っていてもらうことにした。だが、それが失敗だった。
俺が挨拶を終えて戻ってきたとき、なんと先ほどエレベーターで遥菜に近づいてきた男が遥菜と何やら話しているのが見えたのだ。
俺はすかさず横から自分の背中で遥菜をガードするように割り込んだ。
「失礼ですが、私の妻に何かご用ですか?」
どうにか感情は押し殺したものの、自分でもかなり冷たい声を発したのがわかる。
「あっ、これは失礼いたしました。綾瀬常務の奥様だったのですね。初めまして、私はFリゾートの藤田と申します。可愛い女性がおひとりでいらっしゃったので、ついお声をかけてしまいました。申し訳ございません」
その男は営業的な笑顔を作ると、ポケットから名刺入れを取り出し、自分の名刺を差し出した。
何? Fリゾート?
今や飛ぶ鳥を落とす勢いで古くなった旅館やホテルをリノベーションして、新しく高級旅館や高級ホテルとして売り出す人気のリゾート会社だ。
そんなやつがどうして遥菜に近づくんだ?
「Fリゾートの専務さんでしたか。これは失礼いたしました。綾瀬不動産の綾瀬理人です。今後お世話になることがあるかと思いますが、その際にはどうぞよろしくお願い致します。また、今日は妻のお相手をしていただいてありがとうございました。少し早いですが私たちはこれで失礼させていただきますので……。申し訳ございません」
俺はさっさと頭を下げるとその男の返事も聞かず、遥菜の手を取り会場をあとにした。
ホテルのエントランスを出て、待たせていた早川の車に乗る。
「早川、横浜のベイホテルに向かってくれ。着いたらそこで今日はもう帰って大丈夫だから。遅くまで悪いな」
俺はそう告げると、そこでやっと一息ついた。
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