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何も進展がないまま、それからまた5日が過ぎた。
もう一度きちんと自分の気持ちに向き合いたかった私は、仕事が終わった後ひとりで新宿のヒルトンホテルのバーに向かっていた。
ここは清貴に『プライベートでも付き合ってほしい』と告白された思い出の場所だ。
(もう一度あの頃の2人に戻れることができたら……)
新宿駅で電車を降りて西口改札を出る。
ホテルは駅からは少し離れているけれど歩けない距離でもないので、私は駅に向かう人たちとは逆方向に歩き始めた。
少し迷いながら15分近く歩き、やっとホテルのエントランスが見え始めた。
(やっと着いた……)
さすが高級ホテルだけあって、エントランスの前には真っ赤なフェラーリが停まっている。
宿泊客なのだろうか。
東京ってほんとお金持ちが多いんだなと思いながらそのフェラーリの前を通り過ぎた時だった。
バタンと車のドアの音がしたかと思うと、いきなり後ろから右腕を掴まれた。
「梨香子……」
強い力で後ろに引っ張られたので、ヒールが揺らぎ、ぐらっとバランスを崩しそうになる。
なんとか持ちこたえた私は、掴まれた右腕に視線を向けたあと、顔を上にあげた。
「な、何ですか?」
そこには、見知らぬ男性が私を見つめていた。
(わっ、すごいイケメン……)
見知らぬ人に腕を掴まれたにも拘らず、イケメン過ぎて声を発することすら忘れてしまう。
長身のうえ、吸い込まれてしまいそうな黒くて綺麗な二重の瞳に見つめられた私は、固まったままその男性を見つめ返してしまった。
胸がドキンと大きな音を立てる。
「あ、えっと……」
やっとの思いで声を出すと、腕を掴んだそのイケメンの男性も私の顔を見て、「あっ」と気まずそうな表情を向けて掴んでいた腕を放した。
「すみません。人違いでした。失礼しました」
とても丁寧な口調でそう言った男性は、私にきちんと頭を下げると、再びフェラーリに乗り込んだ。
あー、びっくりした。
世の中にはあんな王子様のようなイケメンな人がいるんだね。
すごいイケメンだったけど、一般人なのかな?
りかこって人はあの人の彼女なのかな?
イケメンの顔を見ただけで次々といろんな妄想が膨らんでくる。
私は自分の妄想にクスッと笑いながらホテルの中へ入っていった。
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