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俺はこいつが応接室に入って来た瞬間から気になっていたことがあった。
遥菜の様子がおかしくなったのは確かにこの男に会ってからだ。
それともうひとつ。
遥菜の先輩が言っていたことがずっと心の中で引っかかっていた。
『実は少し前にちょっと嫌なことがあったらしくて。昔遥菜に酷いことをした人がいたのですが、今回もまた酷いことを言われたみたいで……」』
少し前──。
確かに彼女はそう言った。
それに加えて思い出していたことがあった。
契約結婚をするときに、遥菜が言っていた理由だ。
『私は少し前に彼氏に浮気され、騙され、ひどい裏切りを受けました。なので、男性を信じることがとても怖いですし、もし誰かを好きになって信じたとしてもまた同じように裏切られたらと思うとすごく怖くて恋愛なんかできそうにありません──』
もしかして遥菜が会社を辞めたのはこの男のせいだったのではないか。こいつが遥菜の彼氏だったとは考えたくないが、こいつが遥菜にあんな思いをさせた原因の男じゃないのか?
チラリと町田に視線を向ける。
そして俺は少しカマをかけてみることにした。
「仕事の話とは関係ないが、先日君と会ってから妻の様子が変なんだ。聞いてみると、昔妻に酷いことをしたヤツがいて、今回もまたそいつに酷いことを言われたというんだ。それは君じゃないのか?」
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