理人Side⑥ -遥菜を傷つけた男-

3/5
前へ
/519ページ
次へ
「何か勘違いされているようですが、私と桜井さんには何もありません。何のことだか全くわかりませんが……」 なかなか大したヤツだ。 俺に動揺する素振りも見せない。 だが俺はこいつが一瞬顔色を変えたのを見逃さなかった。そして今度は少し深く突っ込んでみることにした。 「そうなのか。実はその後どうしても気になって遥菜を問いただしたら、君から『魅力がなくて真面目過ぎて面白くない女だ、そして俺もそのうち遥菜じゃなく他の女を抱き始める』と言われたと泣きながら話してくれたんだがな」 明らかに町田の顔色が変わった。 目を泳がせている。 しかし町田はまたもや表情を元に戻すと少し笑顔を見せながら口を開いた。 「もっ、もしかしたら、遥菜さんは私が言ったことを勘違いされたのかもしれません。実はあの時、話の流れから綾瀬常務のような方と結婚されたら、常務に魅力的な女性が近づいてきそうだから心配でしょう。遥菜さんは真面目だからあんまり心配しすぎないようにね……みたいな話をしていたんです。私は遥菜さんを心配して言ったつもりだったのですが、それを違うように受け取られたのかもしれません。実は遥菜さん、昔から少し思い込みが激しいところがありましたので……」 はぁ? 遥菜が思い込みが激しい? あいつのどこが思い込みが激しいんだ! 俺はこいつが遥菜をあんな風にさせたんだと確信した。 本当に何も言っていないのであればこんな言い訳はしないはずだ。言ったのは自分ではないと必死で俺に訴えてくるはずだ。 酔いつぶれて泣きじゃくる遥菜の姿が目に浮かぶ。 そして、身体から沸々と怒りが込み上げてきた。
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117869人が本棚に入れています
本棚に追加