理人Side⑥ -遥菜を傷つけた男-

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町田がメールの内容を見て、目を見開く。 「いっ、いえ私は決してこのようなメールは送っていません。たっ、確かに遥菜さん……、いえ桜井さんには酷いことを言ったかもしれません。でも、決してこのメールは送っていません。本当です。信じてください」 町田はさっきとは打って変わって必死で俺に訴えてきた。 「信じてくれだと? 散々遥菜を傷つけておいてよくそんなことが言えるよな。お前じゃなかったら誰が送ってきたというんだ。『桜井遥菜は男にだらしがない。何度か中絶したという噂もある。そんな女と結婚した俺は騙されている。俺のことが心配だ。俺にはもっと相応しい女性がいる。スキャンダルに気をつけろ』だと? 言っておくがな、遥菜の名前が桜井だと知っているのはお前と佐山さんと、パーティーでお前の隣にいた婚約者だけだ。それにな、俺のメールアドレスを知るヤツも限られている。俺は名刺をほとんど出さないからな。遥菜のことを知っているヤツで俺のアドレスを知っているのは佐山さんとお前だけだ。お前じゃないというなら佐山さんか? パーティであんなに喜んでいた佐山さんがこんなことするわけないよな。 となると俺の名刺を見たお前の婚約者が送ってきたんじゃないのか? 俺は出るとこに出て調べてもいい。今はどこから送られたメールなのかすぐに調べられるからな」 「綾瀬常務、本当に僕じゃありません。信じてください。本当です! 本当にそれは僕じゃありません」 「もういい。お前じゃなかったらこんなことするのはお前の婚約者だろ。遥菜と仲が良かったと言いながらあのパーティーで遥菜の周りにはいつも男がいたと俺にわざわざ言ってきたんだからな。だいたいあの女はお前の婚約者だろ? そんな女が他人の夫に自分をアピールしてくるとはどういう神経してるんだ。お前はあの時何とも思わなかったのか? お前ら揃いも揃って本当に最低な人間だな。こんな幼稚で馬鹿が書くようなメールを俺に直接送ってくるとは本当に腹立たしいにも程がある。いいから俺の前から今すぐ消えろっ。気分が悪い。二度と俺にその顔を見せるなっ!」 「あの、綾瀬常務……」 「黙れっ! もし遥菜にまた何かしたら今度は容赦しない。事件にしてお前たちを警察に突き出すからな。婚約者にもきちんと伝えておけ! それからスノーエージェンシーとは今後一切取り引きを停止する。お前とお前の婚約者がいる限り、取り引きは一切しないからよく覚えておけっ! あとで佐山さんに連絡を入れておく。帰れ! 早く失せろっ!」 俺の凄まじい怒りに、町田はデザイン集を手に持つと真っ青になりながら逃げるように応接室から出て行った。 町田が出て行ってからも、腹立たしくて感情がかき乱され、怒りが収まらない イライラが最上級に達し、俺は拳を壁に打ちつけた。 「くそっ! 遥菜をあんな目に遭わせやがって!」 俺がこんなにも腹立たしいということは、遥菜は相当辛かったはずだ。 今からでも遅くはない。 その辛さを少しでも解いてやりたい。 できることなら腕の中で思う存分泣かせて、優しく抱き締めてやりたい。 でも、俺にいったい何ができるっていうんだ──。 俺は大きな息を吐きながら、もう一度壁に拳を打ちつけた。
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