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最初で最後のデート
どういうわけか綾瀬さんは私が酔いつぶれて帰って来てから、なぜかとても優しくなったような気がしていた。
いや、最初から優しい人だったけれど、あの日からもっと私に気遣ってくれるようになった感じがした。
休みの日は買い物に連れて行ってくれたり、毎日23時頃の帰宅だったのが、少しずつ早く帰って来るようになり、いつの間にか夜ごはんも一緒に食べる日が増えていった。
その優しさに触れるたびに、ダメだと思いながらも綾瀬さんのことをますます好きになっていく自分がいた。
こんなに優しいと綾瀬さんが私のことを少しは好きでいてくれるんじゃないか……と勘違いしてしまいそうになることもたびたびあり、私はこの結婚が契約結婚、偽りの結婚だということを忘れてしまいそうになっていた。
気持ちは膨らむ一方で、気がついたら綾瀬さんとの契約終了の日は刻々と近づいていた。
最初は1年間なんて長いと思っていた契約も、日を追うごとに一緒にいる時間が少なくなっていく。
このまま時間が止まってしまえばいいのに──。
いつしか何度もそう願うようになっていた。
綾瀬さんからの愛情は何もいらない。
だから、このまま綾瀬さんのそばにいさせてほしい。
綾瀬さんのそばにいられるなら、それだけでいい……。
この人から離れたくない──。
契約終了となる日が、怖くて、寂しくて、辛くて仕方なかった。
でも──。
綾瀬さんと最初にした約束が私の心を大きく締めつけていた。
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