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契約終了まで2ヶ月を切った平日の朝。
朝食に用意しておいた炊き込みご飯のおむすびを食べながら綾瀬さんが私の名前を呼んだ。
「遥菜」
「はい。なんでしょうか?」
「今週の日曜日、予定がなかったら1日空けておいてもらえないか?」
(んっ? 日曜日?)
綾瀬さんがこんなお願いごとをするのは珍しい。
また夫婦として出席するイベントでもあるのだろうか?
「日曜日ですか? 大丈夫ですけど……。また何かイベントですか?」
笑顔を浮かべて聞き返す。
「いや……。もうすぐ俺たちの契約が切れるだろ……。こうして遥菜に朝食を作ってもらったり、イベントに出てもらったりして助けてもらったのに俺は何にも恩返ししてないから、遥菜にお礼がしたいと思ってな……」
柔らかい笑顔で私を見つめる。
私の大好きな表情だ。
一度でいいからずっとその笑顔を眺めていたいと思ってしまう。
だけど──。
『俺たちの契約が切れる』という言葉を綾瀬さんの口から聞いて、心の奥がズキーンと痛くなった。
私は笑顔を壊さないように微笑んだまま首を横に振った。
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