最初で最後のデート

8/32
前へ
/519ページ
次へ
箱根に到着するまでの間、綾瀬さんはいつもとは違って色々と自分の話をしてくれた。 このフェラーリを初めて買った時のこと。 就職した当初、自分が働いたお金で昔から大好きだった車、このフェラーリを買うのが夢だったそうだ。 ただ、いくら自分の働いたお金で買ったと言っても、実力が伴っていないと外野から御曹司だからとか、どうせ父親に買ってもらったんだろう……などと色々言われてしまう。 そのために一生懸命仕事して、誰にも文句を言わせないようにとにかく不動産について勉強したそうだ。 そして常務に昇進する前の年に念願のフェラーリを買ったということだった。 「やっとこの車を買えた時には嬉しくてな。今までの努力の結晶というか、この車を買えるまで俺は仕事を頑張ったという証明書のような感じでな」 嬉しそうに話してくれる綾瀬さんの顔を見てるだけで、私も幸せになる。 「すごいですよね。車を買うまでに10年近くかかってるんですよね。夢に向かって努力をして頑張って仕事をするって簡単なようだけど、実はそんなにできることじゃないと思うんです。だから本当に尊敬しちゃいます」 「そんな風に言われると照れるが……。だけど、この車には思い入れが結構深くてな」 「そんな理人さんの大切な車に乗せてもらえて、私も嬉しいです。ありがとうございます」 こんな派手な車……って最初は思っていたけれど、綾瀬さんの努力や頑張りがたくさん詰まった車。 そんな思いを聞かせてもらって、しかもその車に何度も乗せてもらえてたなんて、幸せで堪らない。 私は箱根に到着するまでの間、綾瀬さんに気づかれないようにフェラーリのドアにずっと手を当ててその思いを一緒に感じていた。
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117933人が本棚に入れています
本棚に追加