最初で最後のデート

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高速は渋滞することもなく車は順調に走り、10時半過ぎにはガラスの森美術館に到着した。 駐車場に車を停めて降りると、綾瀬さんが突然こんなことを言い出した。 「なあ、遥菜。今日は本当の夫婦みたいに過ごしてみないか?」 「本当の夫婦……ですか?」 首を傾げながら綾瀬さんの顔を見る。 「ああ、俺たちはずっと偽りの夫婦として過ごしてきただろ? だがもう終わりが近づいている。一度くらい本当の夫婦みたいに振舞ってみてはどうかと思ってな。俺もこの結婚が終わればまたひとりに戻るし、最後にそういうのも味わってみたくてな」 綾瀬さんの言ってることは分かったけど、でもいったいどうやったらいいんだろう? 今だって結婚指輪はしているし、他人から見れば本当の夫婦のように見えるはずだ。 普通に話もしているし、これ以外に何を振舞えば本当の夫婦に見える? 「あの理人さん、本当に夫婦のように振舞うって、どうやったらいいんですか?」 斜め上に視線を向けて綾瀬さんをみつめていると──。 「だからこういうことだ」 そう言って、綾瀬さんは私の右手を掴み、手を繋いだ。 えっ? 綾瀬さんと手を繋ぐの??? 急にドキドキドキドキと胸が激しく動き始めた。 こっ、これって、本当に本当にデートじゃん……。 わぁー、わぁー、どうしよう……。
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