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「結婚しているのなら……、俺が提案したことなら……、そんなに急いで家を決めなくても……。迷惑かけたこともたくさんあるだろうし………。俺がきちんと思い出すまでここにいても構わないが……」
やっぱり綾瀬さんは優しい人だ。
私のことが全く誰か分からないのに、梨香子さんじゃないのに、ここにいても構わないと言ってくれる。
目の前にいる人は、愛しいくらいに大好きな人で。
離れたくなくて、一緒にいたくて、その優しさにすがりたくなる。
決心したはずなのに、気持ちが揺れそうになる。
笑顔でいたいのに、涙がどんどん溢れてくる。
そんな私の弱さの中に、梨香子さんに言われた言葉が浮かんできた。
『そこまでして理人と一緒にいたいかしら? 愛されもしない、魅力も何もないのに男にしがみつく女って、私には恥ずかしくて真似できない。自分の立場っていうのをもう少し理解したら?』
自分の立場──。
私はその言葉を自分に言い聞かせるように、大きく息を吸い込んだ。
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