梨香子の出現

17/18
114317人が本棚に入れています
本棚に追加
/519ページ
「結婚しているのなら……、俺が提案したことなら……、そんなに急いで家を決めなくても……。迷惑かけたこともたくさんあるだろうし………。俺がきちんと思い出すまでここにいても構わないが……」 やっぱり綾瀬さんは優しい人だ。 私のことが全く誰か分からないのに、梨香子さんじゃないのに、ここにいても構わないと言ってくれる。 目の前にいる人は、愛しいくらいに大好きな人で。 離れたくなくて、一緒にいたくて、その優しさにすがりたくなる。 決心したはずなのに、気持ちが揺れそうになる。 笑顔でいたいのに、涙がどんどん溢れてくる。 そんな私の弱さの中に、梨香子さんに言われた言葉が浮かんできた。 『そこまでして理人と一緒にいたいかしら? 愛されもしない、魅力も何もないのに男にしがみつく女って、私には恥ずかしくて真似できない。自分の立場っていうのをもう少し理解したら?』 自分の立場──。 私はその言葉を自分に言い聞かせるように、大きく息を吸い込んだ。
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!