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だが、日が経つにつれて、俺は梨香子のことが少し変だと感じるようになってきていた。
俺が知っている梨香子と違うような気がする……、いやどこか別人のような気がする……、そう思い始めてきたのだ。
まず最初に違和感を持ったのは、梨香子が俺に対していつも敬語で話しかけてくることだった。
俺が知っている梨香子はいつもフランクに話し、俺のことを理人と呼び捨てにしていた。それがどういうわけかいつも敬語で、それも理人さんと呼んでくる。
それに料理だ。
正直、梨香子がこんなにも料理が上手いとは思いもしなかった。
デートの時はいつも2人で外食をしていたし、一度も梨香子の作った料理を食べた記憶がない。
確か梨香子は料理はあまり得意ではないと言っていたはずだ。
だが、梨香子の作る料理は何もかもが旨かった。
朝食のホットサンドや、おむすびや味噌汁はもちろんのこと、夕食は和食や洋食に中華、パスタにカレーなど、何を食べても旨かった。
料理が得意ではないと言っていたのは嘘だったのだろうか。だが下手ならまだしも、料理が上手いのに嘘をつく理由が、考えても見つからなかった。
そして一番おかしいと感じたのは、俺と距離を取っているということだった。
必要以上に俺に近づこうとしない、寝室を共にしようとしない、俺の世話はたくさんしてくれるのに、いつも俺から必ず一歩引いているのだ。
目の前の梨香子は、俺の知っている梨香子ではなかった。
こいつは本当に梨香子なのか?
数々の違いにそんな疑問さえ頭の中を掠め始める。
そんなことは決してあるはずないのに──。
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