理人Side⑧ -2人の梨香子-

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個室に案内され、女将がお茶とおしぼりを持ってくる。 「湯川様、いつもありがとうございます。そして綾瀬様、本日はありがとうございます。先日は……」 そう言いかけたところで、「女将さん、先日と同じ握り御膳を2つお願いします」と珍しく海斗が会話を遮った。 女将は「かしこまりました。四季の握り御膳をお2つですね」と言ったあと、すぐに部屋を出て行った。 「理人、勝手に注文したが握りでいいよな。他のメニューだとひとつずつ運ばれてくるから落ち着かないだろ?」 「ああ、何でもいいよ。飯なんてそんなこだわりないし。………………んっ? 俺、そういえば飯にはこだわりなかったよな……?」 どことなく違和感を感じて首を傾げる。 「理人、どうしたんだ?」 「いや……、飯にはあまりこだわりなかったし、食べなくても平気だったんだが……。最近な、梨香子が俺に朝食や夕食を作ってくれるんだ……」 「彼女が食事を作ってくれるのはいいじゃないか。何か問題あるのか?」 「いや……、そういうわけじゃないんだが……」 俺は梨香子に感じた違和感を、海斗に話し始めた。 別れたと思っていたのに一緒に暮らしていることやフランクに話していた梨香子が敬語で話すようになったこと、料理が得意でないと聞いていたのに実際は料理が上手いことや、そしてなぜか俺とは距離を取っていること。 そんな中で、たまに梨香子は別人ではないかと感じてしまうことを。 「なんかな、俺おかしいんだよ……。別人であるわけないのに、俺の知っている梨香子じゃない、実は別人じゃないかと思うことがあるんだ……」 その言葉に、じっと聞いていた海斗が俺に真剣な瞳を向けた。
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